武器としての人口減社会/村上由美子

 

 

 先日、デービッド・アトキンソンさんの『デービッド・アトキンソン 新・所得倍増論』で、最早人口増が見込めない以上、生産性を上げてGDPを増やすしかない、というお話を紹介しました。

 パッと見、真逆と言うか、人口ボーナスと言う“定説”を覆すかのようなタイトルですが…

 この本を書かれた村上さんは、OECD(経済協力機構)の東京センター長を務められている方で、かつてはゴールドマン・サックスでキムされていたという方だということで、人口ボーナスのことを知らないワケはないのですが、このタイトルはどういうことなんだ!?と、読み始めた時点ではワタクシのアタマのなかは、????だったワケですが…

 モチロン、人口ボーナスの定説のことは念頭に置いた上でお話をされているわけですが、実は日本人と言うのは、アトキンソンさんもおっしゃっていた通り、個々の人が持
っている能力の割に、経済指標上現れている数字はショボいというのが、個々の能力においても、経済でのパフォーマンスにおいても顕著に現れているということです。

 その原因というのが、アトキンソンさんも挙げられていた女性の能力が十全に活用されていないということもあるのですが、終身雇用均衡を前提とした新卒一括が未だに続いていることにより、出世をし損ねた40、50代の人たちの能力が、統計上、世界的にも傑出したモノであるにも関わらず、ムダになっているということです。

 また、発明件数など、日本はイノベーションの素地が豊富であるにも関わらず、それをビジネスにして収益に結び付けている割合が著しく低く、そんなこんなで、日本って相当“モッタイナイ”国なようです。

 ということで、それをちょっと“結果”に結びつけるだけで、相当スゴいことになるようで、なんとかなんないですかね…と、この本を読んだら歯噛みをする人が続出ですよね!?

 

ネイティブ英語なんて必要ない!/吉田ちか

 

 

 小学校1年生の時から16年間アメリカで育ち、YouTubeの英語学習コンテンツ「バイリンガール英会話」で人気の方の著書です。

 どっちかと言うとテクニカルなことよりも、英語の習得に取組むにあたってのマインドセットについて語られることの多い本です。

 タイトルにもなっていますが、日本人は英語を習得しようとするにあたって、やたらとネイティブスピーカーが話すような英語を身に付けようとする人が多いワケですが、そのことについて、

 「最初からネイティブ英語を目指すのは、42kmのマラソ
  ンを100mのダッシュと間違えてスタートを切るみたい
  なものです。ゴールが遠すぎて、スタート前にやっぱ
  り無理と諦めてすまうか、最初のダッシュで疲れ果て
  てダウンしてしまうか。」

とウマいことおっしゃっています。

 また英語の修得ってそれなりに大変なモノなんで、ただただ英語を習得しようと思うだけではキモチが持たないということで、

 「自分をmoveさせるものは何なのかを考えてみて、その
  機会を増やすように自分をmoveする。それがモチベー
  ションを維持するために必要なプロセスなんだと思い
  ます。」

ということで、時折英語に取組もうとしたモチベーションの素を思い起こすことの重要性を指摘されます。

 他にもこういうステキなモチベーションアップのヒントが満載なんで、ちょっと英語習得への取組に煮詰まった人に手に取ってもらいたい本です。

 

職業としての小説家/村上春樹

 

職業としての小説家 (新潮文庫)

職業としての小説家 (新潮文庫)

 

 

 村上春樹さんが小説家としてのご自身を語った本です。

 ワタクシ、元々、歴史小説を除くと、ほとんど小説を読まないこともあって、村上さんの小説も、実は1冊も読み切ったことがないのですが、一時期エッセイを読み漁った時期がありました。

 で、村上さんが、神宮球場のライトスタンドで“天啓”を受けて、小説家になろうと決意してから、現在に至るまでの小説家としてのご自身を語られます。

 エッセイを読み漁った印象では、村上さんってそういうことをしたがる人ではないと思っていたので、非常に意外だったのですが、小説家としてのご自身の取組を残そうという意識はあったようです。

 突然小説家になろうとしたこともあって、小説家としての方法論を学ぶことなく、いきなり書き始めたこともあって、小説家としての“セオリー”的なモノを踏襲していないこともあって、日本の文学界でも未だに異端であるワケですが、その村上さんが自分の“方法論”を語るということで、多分小説家を志そうとしている方には非常に参考になるんだろうな、ということと同時に、全く小説を書こうと、想像もしたこともないワタクシであっても、モノを創作するというプロセスを、非常に興味深く読めます。

 デビュー時点から、本業があって、デビュー作から、それなりの成功も収めたこともあり、他の作家とは異なるスタンスであることは確かなんでしょうけど、こういうことを自慢げに、ではなく乾いた文体で語れるところがスゴイなぁ…とミョーなところに感動してしまいました。

 

読む餃子/パラダイス山元

 

読む餃子 (新潮文庫)

読む餃子 (新潮文庫)

 

 

 本業であるミュージシャンとしてよりも、餃子絡みでグルメ雑誌に登場する方で有名なんじゃないかと思うパラダイス山元さんの餃子愛あふれる一冊です。

 さかなクンがやたらと“魚(ギョ)”を会話の中に織り交ぜるように、パラダイスさんも“餃子います(ございます)”のように会話の中に“餃”を織り交ぜます。

 パラダイスさんは餃子愛が昂じて、不定期営業の会員制餃子専門店「蔓餃苑」を営んでおられるということで、ご自身で作られる餃子のことから、専門店で食べる餃子、さらには冷凍餃子に至るまで、餃子愛が感じられる対象であれば、ワケ隔てなく愛を注がれます。

 ワタクシも餃子が大好きで、さすがにパラダイスさんみたいに皮からは作らないものの、タネからは自作して食べているのですが、その際に役立つ小ネタも満載で、非常に参考になります。

 外食派の人もモチロン、寧ろ餃子がニガテな人に読んでもらって、餃子を好きになってもらいたい本です。

 

力を引き出す/原晋×原田曜平

 

力を引き出す 「ゆとり世代」の伸ばし方 (講談社+α新書)

力を引き出す 「ゆとり世代」の伸ばし方 (講談社+α新書)

 

 

 「マイルドヤンキー」「さとり世代」など若年層の消費行動をキャッチーなキーワードを駆使して紹介してこられた原田さんと、青学の駅伝部を強豪に押し上げた原監督との「ゆとり世代」を如何にして能力を引き出すかということについての対談です。

 原田さん自身も、ご自身が主宰する若者研究所において、学生とともに作業をされることが多いということで、若い人たちの接する機会も多いということで、原監督との対談に同調するところが多くて、予定調和的でオモシロくなかったんじゃないかといったことを冒頭でおっしゃっていますが、その年代に接することの少ないモノとしては十分に興味深い内容でした。

 イマイチ覇気がなくて、何を考えているかよくわからないとオジさんたちは言いますが、まあいつの時代もそう言うのはオジさんたちの世の常であるワケで、若い人が気に病む必要はまるでないのですが、原監督によると、“個”を尊重することで、大きなチカラを発揮する傾向があるようです。

 割とメディアに対しては、おちゃらけたことを言っていることが多いのですが、学生に対してはキビシイところは、かなりキビシイようなのですが、ちゃんと学生を個人として重んじているからこそ、あれだけのチカラを引き出せているんだろうな、という感じです。

 

あなたの会社が最速で変わる7つの戦略/神田昌典

 

あなたの会社が最速で変わる7つの戦略

あなたの会社が最速で変わる7つの戦略

 

 

 最近、以前の著作の焼き直しとか、他の人との共作とか、ブレイク当初のパワーが感じられないかった神田さんでしたが、どうも大病をされていたとのことで、今回のも、オッと思いましたが、実質的な執筆はやっぱり他の方のようで…

 先日紹介した本でも、神田さんが以前から「会社が無くなる」ということを再三おっしゃっていることを紹介しましたが、今回の本でも、このまま従来のやり方のカイゼンでは最早「生き残る」ことは覚束ないということを指摘されています。

 だから、売上を数10%伸ばすとかっていうのではなくて、いきなり数倍、数十倍にする方法を考えないとダメだということで、まあ、イノベーションを志向する必要があるということなんでしょうけど、それが従来に比べて圧倒的にやりやすくなっているようです。

 というのも、何かと何かを結びつけるビジネスを作ったり、それを利用して従来の業界の常識では考えられないビジネスモデルを作り出すことも可能だということで、何と何を結び付ければ新たな価値を生み出せるんだろう、と考えることが必要だということです。

 

ビジネスエリートの新論語/司馬遼太郎

 

 

 司馬遼太郎さんが新聞記者だった昭和30年に、本名である福田定一名義で書かれた本です。

 「ビジネスエリートの新論語」ということなのですが、モチロン時代背景から言ってどっちとかいうと“サラリーマン”っていう方がずっと“らしい”のですが、サラリーマンの生活の様々な場面で役立つ、古今東西の格言を紹介します。

 意外だったのがその文体で、のちの端正な文体とは異なり、言ってみれば、『洋酒天国』に執筆されていた時の開高健さんを思わせる軽妙なタッチで、その時代のサラリーマンの悲哀をそこはかとなく感じさせます。

 ただ、選ばれる格言と言うのが、その後の司馬さんを思わせる博識ぶりで、古典から、同時代の本からの引用など、あらゆるところからでてきます。

 “エリート”ではなく、市井のサラリーマンの悲哀は、今もそんなに変わってないんだな、とクスッとさせられる本でした。