なぜ星付きシェフの僕がサイゼリヤでバイトするのか?/村山太一

 

 

 前々から、ミシュランの星付きのイタリアンのオーナーシェフサイゼリヤでバイトをしているという話をネットで見て、ずっと読んでみたいなぁと思っていた本を半年越しくらいでようやく手に取ってみました。

 

 この方、和食の名店から、イタリア現地の星付きのレストランなど名だたる名店でかなり重要なポジションを務めてこられて、経営されているお店をミシュランの星付きにまでした方なんですけど、そういう方がサイゼリヤでバイトをしているということで、ネットでもバズっていたワケですが、これまで修行をされていた店でも、師匠筋にあたるキーパーソンの視点を徹底的にコピってこられて、それなりのポジションを獲得してこられた経験を踏まえて、自分のお店のオペレーションについて学びたいという観点から、サイゼリヤでのバイトという選択に至ったようです。

 

 まあ「偏差値37」なんてタイトルはついているのですが、この方がかなり”デキる”人なのは、「星付きシェフの僕がサイゼリヤでバイトする」時点で明らかなのですが、そこについては巻末のサイゼリヤ創業者である正垣さんとの対談の中で、正垣さんご自身がおっしゃっている「頭がクリアになっている人は偏差値が低いの。」というコメントがすべてを象徴している気がします。

 

 自分の目的を達成するために、ここまで最短距離をたどれるという意味で、かなり稀有な存在だと思われるので、マユにツバをつけずに、迷わず手に取ってみてください!

カベを壊す思考法/出口治明

 

カベを壊す思考法 (扶桑社新書)

カベを壊す思考法 (扶桑社新書)

  • 作者:出口 治明
  • 発売日: 2021/02/28
  • メディア: 新書
 

 

 この本は今年の2月出版の近刊なのですが、2010年に出版された『「思考軸」をつくれ』を元に加筆修正されたモノだということで、出口さんがライフネット生命を創立された際のご経験を踏まえて、自由な思考法を紹介されています。

 

 とかく日本企業では先例思考というか、ああいう場合の時にこうしたから…みたいな考え方をすることが多いと思うのですが、出口さんが著書の中で再三おっしゃられているように、キャッチアップ型のビジネスモデルだったら、”お手本”ありきでそういう思考でも結果が出たかもしれないのですが、最早日本の置かれているビジネス環境というのは、”お手本”が存在しないということもあるので、自分で置かれている状況を理解して、どういう風に動くのが最適なのかということを常々考えて行かなくてはならないということを強調されています。

 

 そういった場合に、「タテ(歴史)・ヨコ(世界)の軸」という思考法を身につけておくと、会社などのごく限られた世界での先例思考に骨の髄まで浸かってしまった人にも、考えるお作法として使いやすいということです。

 

 ただ、日本の”サラリーマン”は圧倒的にインプットが少ないということで、「人・旅・読書」でインプットを大幅に協会して行かなくてはいけないというを強調されています。

 

 また興味深かったのは、日本軍なんかが顕著な例だということですが、日本人って計画が不調に終わった場合のことを想定するのがニガテだということを指摘されていて、コロナ禍の対応においても、そういう特徴が顕著に表れているところに言いようのない不安を感じるのはワタクシだけではないでしょう…

 

 多くの日本人がこういう本を読んで、バランスを思考を身に付けることを期待したいところです。

 

 

45歳の教科書/藤原和博

 

 

 

 先日『35歳の教科書』の実践編である『35歳の幸福論』を紹介しましたが、こちらは10年後の45歳時のあり方を紹介されたモノです。

 

 『35歳の幸福論』ほどではありませんが、この本でも「キャリアの大三角形」というチャートというか、概念図みたいなものでキャリアのあり方を示されているのが、藤原さんの著書中では特徴的なところです。(ちなみに、さらに10年後の在り方を示された『坂の上の坂』がありますが、そこまでコンセプチュアルなものではありません…)

 

 45歳というと、ある程度の経験を経てキャリアも積んでこられていることから、ビミョーに閉塞感を感じつつも、これまで積み上げたことに拘泥されてしまうところもあって、結局凝り固まったように見られてしまうことがあるようです。

 

 そういった経験を持ちつつも、半歩でもいいから現状から踏み出すことで、意外な程世界が広がることがあるようで、そういう違うポジショニングを取ることが、必ずしもゼロからの出発を意味するワケじゃないということと、さらにはその後のキャリアにおいて大きな展開を期待できるところもあるということで、そういう勇気を持つことの意義を語られます。

 

 ただ、あまりにも元々のポジションに拘泥してしまうと、自分が半歩踏み出したつもりでも、周りの人に受け入れてもらえないところもあるので、そういう場面での”信用”を測るチャートなんかも用意されていて、どういう軌道修正を測ればよいのかということにもつながるかも知れません。

 

 特に大企業に勤務している人なんかだと、実質的には終身雇用は崩壊しているにもかかわらず、それに縋りついてしまうところもあると思うのですが、こういう動きができるんだと思えれば、いろいろと”自由”になれるのかも…と感じました。

集中力はいらない/森博嗣

 

集中力はいらない (SB新書)

集中力はいらない (SB新書)

 

 

 今日もまた森さんの”自己啓発本”です。

 

 ここ数冊紹介したモノとは少し異なり、タイトル自体は森さんらしい感じがするのですが、割とストレートにテーマに沿って語られています。(とはいっても、編集者から依頼されたテーマは集中力の重要性みたいなモノだった可能性はあるのですが…)

 

 ワタクシ自身もムスメたちに、もうちょっと集中して物事に取組んでくれたらなぁ、と思うこともあるように、とかく現代日本では集中力をもてはやす傾向がありますが、それってホントに大事なの!?というのが森さんの一貫したギモンみたいです。

 

 ご自身は創作活動でも、そんなに根を詰めて取り組まれているワケではないということで、細かい単位で時間を区切って、寧ろ集中力に頼らなくても仕事ができるように工夫されているようです。

 

 しかもやはり創作活動においては、イマジネーションが重要であり、寧ろ集中して、目の前のこと以外を遮断することが、自由な発想の妨げとなる側面があり、分散や発散を重視されているようです。

 

 そういうのは作家である森さんだから…という向きもあるかも知れませんが、昨今は勤め人であっても、企画策定などイマジネーションが求められる場面が少なくないと思われますし、そういう集中力が必要な場面はあるかとは思えますが、今の日本社会では買い被られ過ぎだったのかも…とこの本を読んで痛感させられた次第です。

「やりがいのある仕事」という幻想/森博嗣

 

「やりがいのある仕事」という幻想 (朝日新書)
 

 

 昨日の『大人はどうして働くの?』が「やりがい」を強調されいたのに比べると、一見真逆のアプローチのように見えますが、森さんの仕事論といった感じの本です。

 

 こちらの本も「これからの働き方」というテーマで編集者から依頼されて書かれたモノだということですが、いつも通りビミョーに編集者が当初意図していたモノとは多少かけ離れたところからスタートしながら、それなりに読ませる内容のモノを提供するという職人技を展開されます。

 

 しかも、天邪鬼を自任される森さんに悩み相談を持ち掛けるという、かなり大胆に思える企画を展開されていますが、質問者を突き放すような回答をするのかと思いきや、一部にそういう期待通りの回答も見受けられるものの、意外な程、丁寧に誠実な回答をされているように見受けられます。

 

 タイトルがタイトルなんで(まあ、森さんらしいタイトルとも言えますが…)、突き放した感じの印象を受けがちですが、編集者が依頼したテーマに、他のエッセイと比べて割と忠実に沿っておられる部分があり、マスをターゲットにするよりも、ニッチに対応するような仕事が今後増えてくるということを指摘しておられるのが印象的です。

 

 そんな中で、自分がそういう状況に適応して、かつ「やりがい」を求めるにあたっては、森さんがこれまで紹介した著書の中でも何度か触れられている、自分が何を求めているのかということをキチンと意識した上で、どういう仕事をするかということが重要であることを指摘しておられて、特に自分の向き合うことが重要な選択となるようです。

 

大人はどうして働くの?/宮本恵理子

 

大人はどうして働くの? (日経Kids+)

大人はどうして働くの? (日経Kids+)

 

 

 『子どもはなぜ勉強しなくちゃいけないの?』『続子どもはなぜ勉強しなくちゃいけないの?』『生きる力ってなんですか?』とシリーズで紹介して参りましたが、こちらもその一環ということで、編者がおおたとしまささんから宮本恵理子に変わっていますが、趣旨は同様のようです。

 

 で、結構オトナが子どもに聞かれると困る素朴な疑問シリーズですが、こちらが一番回答の内容がバラけるんじゃないかなぁ、と思いながら読み始めたのですが、意外と一貫しています。

 

 生活していくためという当然思い浮かぶべき意義があるのですが、それについて触れられている方はほとんどいらっしゃいません…(笑)

 

 やはり「やりがい」について触れられる方が多いのですが、「やりがい」の中身については語られる方それぞれで、非常に興味深い所です。

 

 そんな中でやはり一番多いのは、周囲の人の役に立つことが「やりがい」のひとつであると指摘されている方で、子どもが周りの人に何かをしてあげて、喜んでもらえた体験を大事にすることが、将来の働き方に及ぼす影響について触れられている方もいらっしゃいます。

 

 また、周囲の人がどうのこうのと言わずとも、ご自身の探求心を満たすということが、「やりがい」につながるというご意見もあって、結構多様なご意見が参考になります。

 

 池上彰さんが、「社会を成り立たせるため」に働くとおっしゃっているのが、言われてみれば当たり前なのですが、そういう観点に触れたことが無かったので、個人的には結構ササりました。

 

 まぁ、オトナにとっても、リタイア後とか、導入が取りざたされるベーシックインカムの絡みとか、働くことの意味を考え直す必要がある状況に直面するということもあり、子どもと一緒に働くことの意義を再考(ひょっとして、初めて!?(笑))してみる価値があるんじゃないでしょうか…

 

パックス・チャイナ 中華帝国の野望/近藤大介

 

 

 先日、近藤さんの最新刊である『ファクトで読む米中新冷戦とアフター・コロナ』を紹介しましたが、こちらは2016年時点の中国の状況を追った本です。

 

 この頃は、オバマ政権の頃で、習近平が、オバマ政権の「戦略的忍耐」なるサボり政策につけ込んで、習近平政権下の中国が勢力を伸長させていく様子を紹介されています。

 

 ちょうどこの頃、超タカ派の安倍政権になっていたからよかったものの、習近平就任後に、ワケのわかっていない民主党政権だったら、きっと今頃尖閣諸島は中国に雄幸氏はインされていたんじゃないかと思わせるほどの、中国のガツガツぶりと、日本とオバマ政権のダメっぷりを伺わせます。

 

 途中で、こりゃマズいということで反攻を始めるワケですが、習近平政権は、対中強硬派のクリントンが大統領になる前に、やれるだけやっておこうということで、かなりやりたい放題だったようで、まあ、その後もっとワケの分からないトランプが計算外で大統領になったことで、ビミョーに停滞したのがよかったのか悪かったのか…って感じですが、やはり香港のみならず台湾までも併呑しようとする野心は、このころからかなり明らかだったようで、こういうことをあまり安倍・菅政権が意識していないのか、大手メディアが鈍感なんだかわからないですけど、あまり日本の一般的な認識になっていないのはかなり危険な気がします。

 

 単なる中国寄りのウォッチャーなのかと思いきや、そうだったらここまで書かないのかな…と思わせるような、切迫した状況を紹介されています。