「売り言葉」と「買い言葉」/岡本欣也

 さすがは、売れっ子コピーライターのつけるタイトルですね!

 JT,ホンダ、ドコモといった早々たる企業のコピーを手がけられてきた
方の、コピーライティングに関する本です。

 「売り言葉」「買い言葉」といってもケンカをするわけじゃなくて、コピ
ーライティングの世界では、売り手の視点に立ったコピー、買い手の視点に
立ったコピーということで、実際にこういう言い方をされるようです。

 元々は、自分たちの製品なりサービスなりを訴求するために、コピーを
つけたということで「売り言葉」から入っていったんだということですが、
段々と買い手側のニーズが多様化して、売り手が、「これいいでしょ」
っていうことを買い手と共感することができなくなってしまって、買い手
側からみてどうなんだろう、という「買い言葉」によるコピーが生まれて
きたようです。

 そういう状況から、例外も多々あるのですが、「売り言葉」は端的に、
製品・サービスの訴求ということで、ある程度具体的な表現を伴うこと
が多いのに対して、「買い言葉」は、買い手の心象風景というか、シチュ
エーションといった抽象的な表現が多いのですが、「あー、そういうの
ある、ある!」と思えるようなものが多いようです。

 この本では、例示として過去の名コピーが紹介されているのですが、
昔、開高健だか山口瞳(両者とも、サントリーの名コピーライターです
が…)だかが、宣伝コピーが世相を現すみたいなことをおっしゃってた
記憶がありますが、そのコピーを見ただけで、CMの絵が鮮やかによみ
がえってくるのは、ちょっと驚きでした。