オシムの言葉/木村元彦

 ボチボチ、日本代表の話も入れとかないと…ということで、個人的に今までで
最高の日本代表監督だと思っているオシム氏に関する本を紹介します。

 この本は、オシム氏が日本代表監督になった直後に、単行本を買って読んでいた
のですが、今回、文庫本の再版に当たって、ボスニアサッカー協会の正常化に奔走
したことが描かれていると聞いて、再び文庫本を購入しました。

 ジェフ〜日本代表監督時代、「オシム語録」として、アイロニーに富みながら、
どこかあたたかさを感じさせる言葉を多く残されていますが、そういった背景とし
て、母国ユーゴスラビアが崩壊し、かつての隣人同士が互いに殺しあい、一時期、
家族離散といった過酷な体験を経てこそのものなんだなあ、と感じさせられます。

 個人的に最も印象的だったのが、ユーゴスラビア代表監督としての任務について
のお話で、1990年イタリアW杯〜1992年ユーロ予選にかけての時期、母国が崩壊
しつつあり、選手それぞれが自分の民族からのエゴを押し付けられる中、ギリギリ
でチームとしての「和」を保とうとした姿が痛々しくてなりません。

 日本代表の監督をされていた頃、オシム氏を評して、ある「辛口」評論家が、
あの才能集団であったユーゴスラビアをベスト8までしか引き上げられなかった、
といった発言をしていたのに怒りを覚えたことを思い出します。

 それだけに、今般、オシム氏の奔走により、ボスニアサッカー協会が「正常化」
し、ついにブラジルW杯出場を勝ち得たことに感慨を禁じ得ません。

 また、そのときに、オシム氏が「日本と戦えるといいな」ともらしたことを読
んで、思わず涙が出そうになりました。

 オシム氏関連の著作を読むたびの繰言となりますが、日本代表が、南アW杯を
オシム監督の下で戦えていたらなあ、と改めて思った次第でした。