「独裁者」との交渉術/明石康

 

「独裁者」との交渉術 (集英社新書 525A)

「独裁者」との交渉術 (集英社新書 525A)

 

 

 『オシムの言葉』の木村元彦さんがインタビューアーとし
て、かつての国連事務次長であった明石さんの軌跡を辿った
本です。

 実は、ワタクシ、かつて国際公務員を志した時期がありま
して、その頃、明石さんが国連事務次長をつとめられていて、
憧れの存在でした。

 日本ではどうも国連に過度な期待をする傾向があるようで
すが、実際には、紛争当事国の協定破りや大国のエゴのゴリ
押しで、機能不全に陥ることも少なくありません。

 とは言いながら、当初の安保理での拒否権の押収によって
機能しなくなっていた状態を鑑み、大国主導のスタイルから、
国連の事務方が主体的に紛争当事国の間に介入して、武力衝突
を避けようとするスタイルへの変革の過程を垣間見ることが
できます。

 この本では、明石さんが事務総長代表を勤められたカンボジ
ア和平における取り組みや、木村さんの専門分野であるユーゴ
スラビア紛争での取り組みを紹介されていますが、海千山千
の「独裁者」たちとのドロドロの化かし合いを赤裸々に語られ
ています。
 
 大国は自分たちの都合のいいように、一方の当事者を避難
して国際世論を形成しようとしますが、明石さんは、カタチ
通りの“正義”よりも紛争の解決を第一義として、“悪役”
とされる独裁者たちとも積極的に対話の機会を持ち、独裁者
からの信頼を得て、解決への糸口をたぐり寄せてきます。

 そういうスタイルの変革が、国連のプレゼンスを回復し、
これまで紛争の解決に一定の成果をもたらしてきた、国連
自体の、時には孤立無援のなりながらも、地道に主体的な取
り組みをされてきたことに拍手を贈りたい気になります。