『オシムの言葉』の木村元彦さんがインタビューアーとし
て、かつての国連事務次長であった明石さんの軌跡を辿った
本です。
実は、ワタクシ、かつて国際公務員を志した時期がありま
して、その頃、明石さんが国連事務次長をつとめられていて、
憧れの存在でした。
日本ではどうも国連に過度な期待をする傾向があるようで
すが、実際には、紛争当事国の協定破りや大国のエゴのゴリ
押しで、機能不全に陥ることも少なくありません。
とは言いながら、当初の安保理での拒否権の押収によって
機能しなくなっていた状態を鑑み、大国主導のスタイルから、
国連の事務方が主体的に紛争当事国の間に介入して、武力衝突
を避けようとするスタイルへの変革の過程を垣間見ることが
できます。
この本では、明石さんが事務総長代表を勤められたカンボジ
ア和平における取り組みや、木村さんの専門分野であるユーゴ
スラビア紛争での取り組みを紹介されていますが、海千山千
の「独裁者」たちとのドロドロの化かし合いを赤裸々に語られ
ています。
大国は自分たちの都合のいいように、一方の当事者を避難
して国際世論を形成しようとしますが、明石さんは、カタチ
通りの“正義”よりも紛争の解決を第一義として、“悪役”
とされる独裁者たちとも積極的に対話の機会を持ち、独裁者
からの信頼を得て、解決への糸口をたぐり寄せてきます。
そういうスタイルの変革が、国連のプレゼンスを回復し、
これまで紛争の解決に一定の成果をもたらしてきた、国連
自体の、時には孤立無援のなりながらも、地道に主体的な取
り組みをされてきたことに拍手を贈りたい気になります。