国家の罠/佐藤優

 

 

 「知の怪人」佐藤優氏のデビュー作で、自身が「国策捜査」により有罪とされるに至った経緯を語ります。

 こういう本にありがちな、自分に「罪を着せた」者たちへの非難といったトーンは希薄で、できる限りあったことを、あったままに冷静に語ろうといった意識を強く感じさせる内容です。

 外務省における田中真紀子外相(当時)と、外務省に大きな影響力を持っていた鈴木宗男議員との対立に端を発した外務省の内紛に、その秩序を守ろうとする「大きな力」が、鈴木氏や佐藤氏を「いけにえ」にして幕引きを図ろうとした、ということで、事件当時、いかにも悪役としてのイメージを押し付けられてバッシングを受けていた鈴木氏や佐藤氏は、国家に作られたキャラクターをメディアが受け売りしていたのかな、と思ってしまいます。

 それはそれで、戦慄するほどの恐ろしさがあるのですが、それよりもこの本の中で一番印象的だったのは、「国士」として自身が拘留され続けることを厭わず、日本の外交への悪影響を最小限にしようとした佐藤氏の姿を見て、「敵」であるはずの検察官が、これまた検察官としてのあるべき姿に徹しようとして、最期には、スポーツにおける好敵手同士が抱くであろう、友情のようなものを形成に至る過程です。

 確かに、佐藤氏が言われのない罪を被らされて、日露平和条約締結に向けた道筋が蹉跌してしまったのは、日本国民としても残念ですが、彼の頭の中にあるものが多くの人に紹介されることとなったことは、「国策捜査」の意図せざる成果だったのかもしれません。