「戦術」への挑戦状/ヘスス・スアレス、小宮良之

 

「戦術」への挑戦状 フットボールなで斬り論

「戦術」への挑戦状 フットボールなで斬り論

 

 

 『World Soccoer Digest』への辛口のエッセイの連載で知られるスアレスさんの『~への挑戦状』シリーズも5冊目のようです。

 1冊目と2冊目は読んでいて、このブログでも紹介しているのですが、『World Soccoer Digest』の定期購読を止めてから、3、4冊目はスルーしていましたが、図書館で5冊目を見かけたので、懐かしくなって手に取ってみました。

 まあ、「名将」とか「英雄」とか手を変え品を変え、今回は「戦術」ってことですが、スアレスさんのエンターテインメント溢れるサッカーへの愛情と、フィジカルを重視する最近のサッカーの傾向への嫌悪というスタンスは全く変わらないので、同じような話題も頻繁に出てくるのですが、それはご愛敬ということで…

 一応、今回は「戦術」がテーマなんで、それをてがかりに話が始まって、いつもの話に流れる、といった具合です。

 この本を読んで一番驚いたのが、スアレスさんが現代サッカーにおいて定番ともいえる「4-2-3-1」の布陣が、美しいサッカーを壊したと指摘されていることです。

 98年フランスW杯で、ヒディンク率いるオランダ代表の布陣として採用され、大成功を収めたことで世界中に広まって、日本代表も長らくこの布陣をとっていますが、その起源は94年アメリカW杯のブラジル代表みたいですね。

 スアレスさんによると、ファンタジー溢れるアタッカーを一人削って、守備的MFを2枚にするというのがお気に召さないようで」、ポゼッションをちゃんとやっていれば、一人でも守り切れはずだということで、この大会でブラジルは優勝しましたが、フ
ァンタジー溢れるアタッカーだったライーが犠牲になったことを嘆かれています。

 この本では最後に、今年惜しまれながらこの世を去ったクライ氏が、書かれた当時は病が重篤だった時期だということで、クライフ氏の監督としての業績を中心に、回復を祈ってのエールを贈られています。

 「もし、クライフがこの世にいなかったら…」という、愛弟子でもある、グアルディオラの言葉を引き合いに出されていますが、自他ともにひねくれ者を自任するスアレスが、ここまで手放しで礼賛されていることが、クライフ氏の偉大さを痛感させられる気がします。