素顔の西郷隆盛/磯田道史

 

素顔の西郷隆盛 (新潮新書)

素顔の西郷隆盛 (新潮新書)

 

 

 NHKの歴史番組などでビミョーに派手なスーツを着て、ニヤニヤ笑いながらコメントをされているのが不気味で、未だに違和感を拭えない磯田さんなのですが、書かれる本はどれも極めてオモシロいのでセッセと手に取り続けております。

 この本は、2018年の大河ドラマ西郷どん』でも取り上げられた西郷隆盛の実像に迫ろうという趣旨なのですが、磯田さんは『西郷どん』の時代考証も手掛けられているんですね…

 西郷隆盛は、極めて人道主義的な思想で知られながら、倒幕の過程においては極めて苛烈な手段を取ったことでも知られており、歴史学者の間ではその人格の整合性に苦慮する向きもあるようですが、その点について磯田さんは“正しい”目的を達成するためには手段を択ばないという志向があったことを指摘されています。

 その姿勢については“国父”島津久光の勘気に触れて2度目の遠島で沖永良部島に流されたことが契機になったとおっしゃいます。

 維新後の無常観や無欲感については、元々欲は少なかったようなのですが、隠遁生活を送るに至ったのは、信頼の厚かった弟・吉二郎を始めとする親しかった人たちを多く戊辰戦争で失ったことが契機になっており、無力感で新政府での仕事をする気が失せてしまったようです。

 さらに、そういう極度な“無私”は、安政の大獄時に、勤王僧・月照と共に自害しようとしたものの果たせず、その後の人生は付け足しだと思っていたフシがあり、磯田さんは一人で敵陣に乗り込んで行ったり、西南戦争に至るまでの過程を“ゆるやかな自殺”と表現されています。

 あと驚いたのが、慶喜鳥羽伏見の戦いにおける旧幕府軍の本拠であった大坂城を“捨てて”江戸に逃げ帰ったとされるのは、イギリスの圧力があったということで、そういう“隠し玉”も巧みに使われて臨場感を盛り上げています。

 それにしても磯田さんが書かれたモノって、歴史上の人物が現代を生きる人物のように思える程、詳細に活写されており、読んでいてワクワクさせられますね。