うつ・パニックは「鉄」不足が原因だった/藤川徳美

 

うつ・パニックは「鉄」不足が原因だった (光文社新書)

うつ・パニックは「鉄」不足が原因だった (光文社新書)

 

 

 精神科医心療内科のクリニックのセンセイが鉄分摂取の重要性について語られた本です。

 藤川先生のクリニックでうつやパニック障害の治療で訪れる患者さんの大半が鉄分不足で、鉄分を処方すると快方に向かう方が多いということなんですが、あまりうつやパニック障害にこういう治療をしようとするお医者さんは多くないようです。

 鉄分不足は特に女性に顕著で、貧血気味の人は鉄分を積極に摂るように言われることはありますが、そこで言われているのはヘモグロビン量についてのことを指すことがほとんどで、それよりもうつやパニック障害では鉄分を体内に保持しておくフェリチンの値の低い人が多いということです。

 特に産後の女性は保持していた鉄分のかなりの部分を赤ちゃんが持って行ってしまうのでフェリチンの値が著しく低くなっていることが多く、それが産後うつにつながったり、そういう状態で授乳をしていると赤ちゃんが学習障害などになってしまうリスクがあるということです。

 じゃあなぜうつやパニック障害に対して鉄分を処方するような治療が行われないかというと、第一には日本の医師は栄養学についての知識が低く、生きていくのに必要なカロリー総量は摂取していることを前提している「古典栄養学」しか意識していないことがほとんどで、藤川先生は要素ごとに不足している栄養素を検討する「分子栄養学」の考え方を元に判断すべきだとおっしゃっておられ、それによると日本人女性の9割以上は鉄分不足であることが推定されるということです。

 第2の要素としては日本の病院で幅を利かせる製薬会社の影響力で、うつ病の治療にはおカネにならない鉄剤を処方するよりも抗うつ剤の処方をするように仕向ける傾向が強く、医師としても何かと便宜を図ってくれる製薬会社の意向に沿うことになりがちなようです。

 がんの放置治療の近藤センセイも医師の栄養学の知識不足と製薬会社主導の“薬害”を指摘されていましたが、こういう場面でも表れているようで、日本の医療現場の病巣の深さを改めて感じさせられます。