敗れざる者たち/沢木耕太郎

 

敗れざる者たち (文春文庫)

敗れざる者たち (文春文庫)

 

 先日『Number ベスト・セレクション 1』を紹介した際に、沢木耕太郎さんが雑誌編集の方向性に大きな影響を与えていたことを紹介しましたが、沢木さんご自身もスポーツを題材としたノンフィクションを数多く手掛けておられますが、この本は沢木さんの初期の3部作と言われる諸作のうちの1冊で、スポーツノンフィクション関連の著作を集めたモノです。

 

 スポーツノンフィクションというとジャーナリズム的な要素を含むものも数多くあり、そのためか結果が重要な要素となることも少なからずあるため、押しなべて“勝者”が素材として取り上げられることが多いと思うのですが、この本は『敗れざる者たち』というタイトルでありながら、『ドランカー<酔いどれ>』と題して、輪島功一が世界タイトルを奪取した軌跡を描いたモノを除けば、その才能に見合った結果を得ることができなかった者の悲哀が全体のトーンとしてあり、沢木さん自身あまり"結果"そのものに価値を見出しているようには見受けられず、スポーツも、あくまでもノンフィクションの素材の一つであると捉えられているように見受けられます。

 

 おそらくスポーツに対するこういう見方というのはかなり新鮮だったと思われ、『Number』創刊号で鮮烈なデビューを果たす山際淳司さんもスポーツライターとしてのデビュー作である『スローカーブを、もう一球』では『江夏の21球』を除けば、知られざる選手たちを取り上げられており、沢木さんの影響を感じさせられます。

 

 特にこの本では、のちに再び沢木さんの代表作の一つともなる『一瞬の夏』で取り上げることとなるカシアス内藤を紹介した『クレイになれなかった男』の、才能を十全に活かそうとしないことへの苛立ちが印象的です。

 

 今となっては、こういうジャーナリズム的な要素を抑えて、ストーリー的な要素を前面に出したスポーツノンフィクションは一つの表現上の手法として一般的になっていますが、スポーツの魅力を十全に紹介する上で、かなり重要な進化だったんだろうなぁ、と今更ながら感じさせられます。