知的経験のすすめ/開高健

 

 

 

 コロナ禍によるひきこもりで、読む本の入手に困り、懐かしい本を読み返しているのですが、この本はワタクシが大学生の頃にハマった開高健さんの著書です。

 

 タイトルだけ見ると昨今の自己啓発本のようですが、この頃ハードボイルド系の作家が雑誌で人生相談に応じるというのが各誌で流行ってて、北方健三さんや落合信彦さんが連載されていたのですが、開高さんもそういった流れのうちのおひとりということで、相談系の連載もあったのですが、この本はちょっと自己啓発系の内容を意図して東京新聞での『私の大学』という連載をまとめたものです。

 

 当時開高さんは、その後日本文学大賞を受賞することになる自伝的な小説である『耳の物語』を執筆されていて、この連載は、そのサイドストーリー的なことを書かれています。

 

 “知的経験”をススメていながら、「頭だけの人間はすべてを失うことになる」とおっしゃっておられて、戦中戦後のご自身の体験を通して、本から得る知性だけではなく”経験”によって知性を鍛えていくことで、より”使える”知性を身に付けることにつながることを示唆されています。

 

 その後、開高さんはベトナム戦争の最前線に従軍記者として参加されたり、アマゾン川での釣行をされたりといったことを小説とする“行動派”の作家として名を馳せることになるのですが、この本で紹介されているような行動を通して知性を養うことの重要性を身を以って証明されていくことになります。

 

 この本で紹介されているエピソードの中で、戦時中に釣りをしていたら、いきなり「兵隊さんが最前線で戦っているのに、のんきに釣りをしているとは何事だ!」と釣竿を折られた経験を紹介されていますが、コロナ禍での”自粛警察”が思い起こされて、日本人の全体主義的な思考癖が脈々と受け継がれていることに恐ろしさを感じた次第でした。