中田英寿 鼓動/小松成美

 

中田英寿 鼓動 (幻冬舎文庫)

中田英寿 鼓動 (幻冬舎文庫)

  • 作者:小松 成美
  • 発売日: 2000/08/01
  • メディア: 文庫
 

 

 サッカー日本代表がW杯初出場を果たしたフランスW杯最終予選から、セリエA移籍~デビューの時期を中心に元日本代表中田英寿選手を追ったドキュメンタリーです。

 

 文庫本の前書きに中田選手自身が「当時の彼女はまさに僕の「影」のようでした。」との言葉を寄せているように、この時期の中田選手のインサイドストーリーを現場を見るような迫力で描きます。

 

 W杯開幕直前まで、右翼に付け回されたり、ありもしないことを書くメディアにいらだたされたりと、最終予選からW杯出場まで、実はサッカーを辞めようとまで追い詰められている中田選手の実情を追われますが、それよりも日本人サッカー選手で初めて魑魅魍魎の欧州サッカーの移籍マーケットに飛び込んでいく(行かざるを得なかった)様子を追ったところが際立ってスリリングです。

 

 当時、欧州サッカーの移籍マーケットの様子を知る日本人も少なく、またサッカーの移籍ビジネスが唸るほどカネが儲かるモノだということが認識され始めて有象無象のアヤシゲな面々が巣食っていた時期でもあり、現在のように移籍の情報も多くなって、アヤシゲな面々が関われる余地もなくなってきている状況から比べると、ほぼ徒手空拳で乗り込んでいって、海千山千のクラブオーナーたちと立ち回りを演じて、つつがなく移籍を実現した当時のスタッフの奮闘を余すところなく露わにします。

 

 残念ながら十全にその才能を発揮する場を得ないまま若くして引退してしまうことになる中田選手ですが、デビュー戦でのチャンピオンチーム・ユベントスを向こうに回しての2ゴールは永遠に日本サッカー史に残る快挙であり、ドロドロの移籍劇を経ての鮮烈な成果を思うと感慨を禁じ得ません。