ずばり東京/開高健

 

ずばり東京 (文春文庫 (127‐6))

ずばり東京 (文春文庫 (127‐6))

 

 

 開高健さんは抑うつ的な症状が時折あって、執筆ができなくなってしまうことがしばしばあったとのことですが、作家の武田泰淳さんに勧められて、小説を書けなくなった時にルポルタージュを手がけられていたということで、そのうちの1冊がこの本です。

 

 この本は1964年のオリンピック直前の東京の風俗というか、世相と言うか、当時の東京を様々な角度から捉えたルポが40編あまり掲載されているのですが、多少高尚な世界も紹介されているのですが、開高さんの嗜好からか、どちらかというと底辺に近い所のモノが多くなっています。

 

 モチロン60年近く前の状況を追っているだけに、流しだったり歌声喫茶だったり、もはや存在しないモノも数多くあるのですが、特に鋼材を拾って生活をしていた集団を追った名作『日本三文オペラ (新潮文庫)』でも題材にされたような、底辺の生活を扱ったモノでは、それなりに全体としては当時とは比較にならない位の経済的な発展を遂げた現在の日本においても、それほど変わらない状況なんじゃないかと思わされます。

 

 特に風俗関連のモノを扱った章なんかでは、セイフティネットの外にある女性たちの苦境はそんなに変わらないように思えます。

 

 最後の方で、東京オリンピック開会式にレポートでクライマックスを迎えますが、来年無事オリンピックが開かれたとして、やはり1964年とそんなに変わらない状況が展開されるんでしょうか!?