世にも奇妙なニッポンのお笑い/チャド・マレーン

 

 

 『ダウンタウンガキの使いやあれへんで!!』に衝撃を受けて、コメディアンになるべくオーストラリアから来日したチャドさんの自伝と言うか比較お笑い論というか、かなり盛りだくさんの内容の本です。

 

 まずはチャドさんがお笑いを志すキッカケとなった『ダウンタウンガキの使いやあれへんで!!』との出会いから来日、吉本興業経営のお笑いの学校であるNSCでの会い方との出会いとデビュー~東京進出まで、オーストラリア出身のお笑い芸人のクロニクルとして、まずは十分に楽しめます。

 

 さらには、欧米のコメディと比較しての日本のお笑いの特異性について紹介されているのですが、その中で、脳科学者である茂木健一郎さんが政治への風刺などが希薄な日本のお笑いが”オワコン”だと批判したコメントに対して、欧米のお笑いを知るチャドさんはこの本の中でかなり激しく、再三このコメントに反論をされています。

 

 というのも、欧米のお笑いと言うのは、クリシェと言うかここを突けば、大部分の人にはウケるという”ツボ”みたいなものを突けばいいという安易な姿勢が多く、政治への風刺などはその最たるモノで、日本のお笑いはそういう安易なモノを避けて、困難なテーマに取組みながらも練りに練った構成で笑わせる高度なモノだとおっしゃられていて、茂木さんの批判が的外れのモノであると論破されています。

 

 さらには欧米のコメディでは、スタンダップコメディという日本で言う漫才みたいなモノがほとんどで、日本におけるコントなどのバラエティに富んだ形式は見られないということです。

 

 特にオーストラリアやアメリカでは、平等を重視する姿勢からかツッコミのスタイルがほぼ見られないというのが興味深く、ましてやドツキ漫才なんかを見せてしまうと、ドン引きになってしまうということです。

 

 チャドさんは、日本のお笑いの翻訳にも取り組んでおられるということで、芸人を題材にしたお笑い芸人ピースの又吉直樹さんが書かれた芥川賞受賞作『火花』の映画の英訳を始め、松本人志さんの映画の諸作などの英訳を手がけられていて、その難しさなどを紹介されています。

 

 当然、日本でのお笑いと、英語圏におけるお笑いの”ツボ”が異なるので、単純に直訳しても何がオモシロいのやら…ということになってしまうのは分かるのですが、日本でのお笑いのツボを欧米でのツボに置き換えようとするところなど、ワタクシ自身翻訳を経験したこともあるので、その難しさはよく理解できます。

 

 そういう難しさを勘案しても日本の造り込まれたお笑いと言うのは、言語のハンディを超えて世界中で受け入れられるポテンシャルを備えているということで、チャドさんには今後とも、架け橋としての役割を果たし続けてもらいたいモノです。