社会不満足/乙武洋匡

 

社会不満足 ―乙武洋匡 対談

社会不満足 ―乙武洋匡 対談

  • 作者:乙武洋匡
  • 発売日: 2014/11/11
  • メディア: 単行本
 

 

 『五体不満足』で知られる乙武さんが、各界の若手実力者たちと、それぞれが活動する分野における社会的な問題についての対談を集めた本です。

 

 病時保育に取組む駒崎さんや、最近は女性の就業環境の改善に取組む小室さん、戦争教育について語る古市さん、ネットと政治の関係深化に取組む津田さん、都知事選に出られた起業家の家入さんなど、このブログで著書を取り上げてきた方々が続々と登場する豪華版ですが、乙武さんの問題意識がかなり広範に渡っていることを伺わせます。

 

 往々にして権力と言うのは弱者救済というインセンティブが働きにくいのは世の常ではあるのですが、特に小泉政権以降、長期一強となった安倍政権、その権威主義的なスタンスを受け継いだ菅政権と、コロナ禍においてもおざなりな対応しかなされて来ないなど、よりそういう色合いが強くなっているように見えます。

 

 この本は2014年に出版された本なのですが、そういう埋もれている観点を露わにしようという姿勢での対談が多く見られます。

 

 特に印象的だったのが小室さんのセッションで、女性がフルタイムで働くことの困難さについてのトピックで、ダンナの側としては一生懸命”手伝って”いるつもりでも、なかなか女性の側の負担が減らない…特に子育てという要素が入ってくると、多少ガンバっていても、割合的に9:1くらいの負荷になってしまいがちだということです。

 

 ワタクシ自身も、全然エラそうに言える立場ではないのですが、単身赴任をして一定の範囲を自分でこなさないといけなくなるまでは見えなかった細かいタスクが数限りなくあることについて、小室さんが指摘されています。

 

 まあ、制度的にどうのこうのという問題ではないのかも知れませんが、一事が万事、こういう”痒い所に手が届く”ような施策が無ければ、”一億総活躍”なんていっても、絵に描いたモチに過ぎなくなるんじゃないかと感じさせられます。

 

 この本の最後に、ネットを中心に活躍されるジャーナリストの津田さんと、ネットを中心とした言論を表明するサイト「ゲンロン」を主宰される東さんと乙武さんの3人の対談が掲載されていますが、やたらとお二方が乙武さんの都知事選出馬をススメられています。

 

 おそらく本人もその後それなりに何らかのカタチで政治に関わることを想定されていたように思われるのですが、その後、2016年の文春による乙武さんの不倫報道で一旦その”計画”はとん挫したように見えています。

 

 この本に取り上げられたような様々な分野への問題意識があって、かつかなりの影響力がある乙武さんなんで、政治家になってすぐにどうのこうのできるワケではないのかも知れませんが、それなりの成果をあげられるポテンシャルを感じさせてくれる人が、ああいうカタチで断念されてしまうのは、残念なことだったなぁ、とこの本を読んで思い返させられます。