宰相のインテリジェンス/手嶋龍一

 

宰相のインテリジェンス: 9・11から3・11へ (新潮文庫)
 

 

 これまで『インテリジェンス 武器なき戦争』から最新刊『菅政権と米中危機』まで、”知の怪人”佐藤優さんとの対談本を紹介してきた手嶋龍一さん単独の著書を手に取ってみました。

 

 サブタイトルで分かるように、アメリカにおける9.11テロへのアメリカのホワイトハウスの対応と、東日本大震災における日本の首相官邸の対応を中心に、それぞれの国とトップのインテリジェンス活動との関わりを追われています。

 

 まあ、日本の場合はインテリジェンス活動とも言えない惨状を伺わせますが、CIAやFBIといったインテリジェンス機関が整備されたアメリカであっても、首脳陣の判断によっては、そういった活動の成果である情報もムダになってしまいかねないことを示唆されています。

 

 特に、ブッシュ政権下のライス国務長官が適切にインテリジェンス情報を活用していれば、9.11のテロは未然に防げていたはずだということであり、インテリジェンス情報活用のための仕組みということも重要であることを伺わせます。

 

 それに対して日本では、当時の民主党政権における対応の拙劣さも去ることながら、インテリジェンス活動の整備自体が課題であり、そういった事情が、福島第一原発における対応に、最高司令官たる菅首相が最前線に乗り込むという異常な行動につながったという側面もあったのかも知れません。

 

 そういう反省から安倍政権による日本版NSC設立につながったのかも知れませんが、そのことが有効なインテリジェンス活動に繋がっていないことは、コロナ禍における迷走から見ても明らかであり、手嶋さんや佐藤さんのような有識者を交えた体制の整備が望まれるところです。