幕末インテリジェンス/白石良夫

 

 

 こちらは幕末の中小親藩の江戸留守居役の日記を通して、幕末の動乱を”インテリジェンス”という観点から見てみるというなかなか斬新な切り口の本です。

 

 この本の主役となるのは下総佐倉藩11万石で、幕末の動乱期に江戸留守居役を務められた方で、明治期には文人として活躍される依田学海という方の日記を通して、幕末の動乱期を見てみようというモノです。

 

 インテリジェンスというと諜報とかスパイ活動みたいなものを思い浮かべますが、外交における人脈を通した情報収集活動も、”知の怪人”佐藤優さんの著書で紹介されているように、ヒューミントというインテリジェンス活動の一類型であり、各藩の江戸留守居役同士の会合によって様々な情報を集めるという役割を担われていたようです。

 

 特に幕末の動乱期には、政局の中心が京都に移っており、京都藩邸を持たない多くの関東以東の各藩に取って、江戸留守居を通した情報収集に藩のサバイバルがかかっており、平時には各藩との交流の名を借りた単なる飲み会だったのが、かなりの真剣度をもって取組むことになっていったようです。

 

 主役である依田さんは、割と”志”のある人で、当初は単なる飲み会であることを嘆かれるところもありましたが、次第にその役割に重要性を認識して行かれる様子が興味深いところです。

 

 まあ、インテリジェンスと読めなくもないですが、”知の怪人”佐藤さんや手嶋龍一さんが書かれるインテリジェンスに比べるとダイナミズムに著しく欠けるきらいはあり、単なる歴史的なモノとして読まれるのもアリだとは思いますが、こういうのもインテリジェンスの一側面だと思って読むと、日本人って割とインテリジェンス活動に向いていたのかな、という気もしてきます。