ベーシック・インカム/原田泰

 

 

 かつて小泉内閣の懐刀として重責を果たされた竹中平蔵さんが提唱して、一般的にも注目されるようになったベーシック・インカムについて、理論的な背景も含めて紹介された本です。

 

 特にAIの進化とともにクローズアップされるようになったベーシック・インカムですが、意外とその歴史は古いようで、所得再配分的な考え方の一環として19世紀には、そういった考え方が出てきていたようで、そういった経緯を紹介されています。

 

 竹中氏がベーシック・インカムを提唱された際には、「どうやって月7万円で生活できるんだ!?」とか「どこにそんな財源があるんだ!?」といった感じで、メディアもあまり深い検証をしないまま、どちらかというと感情的な部分での論調が目立ちましたが、この本ではそういう側面での実現性も、現状と生活保護と照らし合わせて検証されています。

 

 その月7万円というのは、ある意味憲法25条が定める「健康で文化的な最低限度の生活」と言える水準を指すということなのですが、現状日本ではその水準にすら達していない人が相当多いということで、ベーシック・インカムはそういう人々を救う手段となりうるということなのですが、確かに一人世帯だとキビシい部分はあると思うのですが、年金の最低水準の人がそれぐらいの給付水準で生活されている人もおられるようなので、二人以上の世帯であれば、医療費扶助等の要素と組み合わせれば、それなりの生活水準を実現できるということを指摘されています。

 

 また財源的にも、年金や生活保護等の扶助政策を再編すると同時に、富裕層への課税の見直しによって、全国民に7万円程度の給付ができるだけの財源の確保を検証されているとともに、この本では指摘されていませんが、給付の審査のプロセスが簡素化できたり、電子マネーによる給付などの給付プロセスの簡素化などにより、相当のコストを削減できる可能性もあり、そういうことも勘案するとベーシック・インカムの実現可能性は相当高そうです。

 

 まあ、日本人は「働かざる者食うべからず」という倫理的な壁の方が高いとは思うのですが、別にベーシック・インカムは働くことを否定しているワケではなく、コロナ禍のような時に、何のセーフティネットもなく生活基盤が奪われるような状況の回避も期待でき、より自己実現に近い働き方を志向する上でも有用だと思うのですが、どうでしょうか!?