手堀り日本史/司馬遼太郎

 

新装版 手掘り日本史 (文春文庫)

新装版 手掘り日本史 (文春文庫)

 

 

 司馬遼太郎さんが小説を書く上での取組み方などを語られたインタビュー本です。

 

 元々この本は昭和47年に出版されたモノだということで、割と初期のモノで、代表作で言うと、『竜馬がゆく』や『関ケ原』などは既に世にでていますが、『翔ぶがごとく』はまだ世にでておらず、『坂の上の雲』が連載中かな!?という頃のモノです。

 

 司馬さんは膨大な参考文献を読み込んだ上で小説を書かれていたことで知られていますが、小説を書くにあたって登場人物となる人と、参考文献を読みながら会話をしているような感覚になるまで、様々な側面での文献を読み込んでおられるということで、歴史を活きたモノとして捉えることを重視されていたということです。

 

 特に、行動の基となった考え方ということを重視されていたようで、例えば、現時点ではどうかわからないですが、この本が出た頃の韓国の若者は、どんなに粋がっていても父親の前でタバコを吸うなんてことはあり得ないほど、儒教の教えが浸透していたということで、本人も意識していないような行動の原理を意識していないと、なぜそういうことをしたのかよく理解できない可能性が高いということで、そういう行動の前提を丹念に追って行くことで、その人が目の前で話しているかのように思えるほど、キャラクターを理解できるようになったということです。

 

 ということで、司馬さんは本能寺の変も小説のテーマとして検討はされたようなのですが、コトを起こした時の明智光秀がノイローゼ気味に感じられたということで、行動に原理を感じられないことで、きっと目の前で会話しているような感覚にならなかったことで、残念ながら小説の題材とはならなかったようです。

 

 後年、そういう”活きた人間”を重視するような歴史の見方が「司馬史観」と言われるようになりますが、『竜馬がゆく』で確立したという方法論を見ると、より司馬さんの小説が楽しめるような気がします。