いま生きる階級論/佐藤優

 

いま生きる階級論(新潮文庫)

いま生きる階級論(新潮文庫)

 

 

 ”知の怪人”佐藤優さんが、マルクス経済学の第一人者とされる宇野弘蔵さんの『経済学方法論』を読み解くカタチで進められる講座の内容をまとめた本で、前年にマルクスの『資本論』を読み解く講座をまとめた『いま生きる「資本論」』の続編とも言える内容になっています。

 

 資本主義経済が制度疲労を起こし限界を露呈していると言われている昨今、日本で言うと明治維新の頃、既に資本主義経済の限界を見通していた『資本論』を読み解くことが、現在の閉塞状態を打開するためのヒントを得られると、佐藤さんは再三著書の中でおっしゃられていますが、特にマルクスの展開した論を革命論とかではなく、純粋に経済理論として捉えた宇野理論の研究に意義があるとおっしゃいます。

 

 前編でもマルクス経済学の中心理論の一つである「労働力商品化」について触れられていましたが、どちらかというと前編では「貨幣論」にウェイトが置かれていたのに対し、こちらでは「労働力商品化」が中心に語られます。

 

 前編でも「貨幣」と「労働力」という経済における中心的な概念が”所与”のモノとされていて、それ時代の分析がなされていないところに近代経済学の決定的な欠落があると再三おっしゃっておられて、それが故にマルクス経済学を研究する意義があるということですが、こちらでは「労働力」を「商品」として捉えることで分析をされていることを紹介されています。

 

 そんな中でこの本のタイトルが「階級論」となっているのは、マルクス経済学でいう「資本家」と「プロレタリアート」の「階級」の分離を中心に扱っておられて、労働者はどれだけ懸命に働いても”億”を稼ぐことはできないという限界論を踏まえた上で、「プロレタリアート」がどのように「労働力」を提供するのかということについて、「労働力」を提供するナマの人間の心理的な側面も踏まえて理論的な枠組みを紹介されているのが印象的です。

 

 確かに分析の枠組みとして「静的」なモデルを対象とするのに意義が無いワケではないとは思いますが、ナマの経済への処方箋を求める上で、こういうアプローチは不可欠なんだろうなぁ、と感じます。

 

 正直、この本でおっしゃっていることは、多く見積もっても30%位しか理解できていない気がしますが、ミョーに知的興奮を掻き立てられるのはなぜなんでしょうかねぇ…