がんばらない/鎌田實

 

がんばらない (集英社文庫)

がんばらない (集英社文庫)

  • 作者:實, 鎌田
  • 発売日: 2003/06/20
  • メディア: 文庫
 

 

 鎌田先生が院長を務められていた諏訪中央病院での取組を中心に患者さんに寄り添う医療について語られた本で、おそらく鎌田先生のデビュー作だと思われます。

 

 諏訪中央病院では、地方の病院としてはいち早くターミナルケアを専門とする診療科を設置したりと、かなり重度の癌患者を数多く診られているということで、必然的に多くの患者さんを見送ってこられたのですが、その際にいち早く患者さん本人への告知を取り入れられたということです。

 

 その理由としては、如何にして残りの人生を充実させて少しでも死ぬときに後悔を少なくしようということで、患者さんご自身に自分の治療のあり方を含めて、どのように人生に取組んで行くかを考えてもらうようにしているようです。

 

 日本における医療では如何にして病気を克服するかということが重視されて、その点においては目覚ましい進歩があって、より多くの患者さんを救ってきたことは間違いないのですが、あまりにも病気事態にフォーカスし過ぎて、患者さんが望まない治療まで強いてしまう部分があったんじゃないかということで、鎌田先生を始めとする諏訪中央病院のスタッフの方々は、どうすれば一番患者さんがシアワセなのかということにココロを砕かれてきたようです。

 

 フツーの病院だったら嫌がる、終末期の癌患者の自宅療養も、出来たら家で最期を迎えたいという患者さんやその家族の意志を尊重してこそで、急変の場合にはいち早く医師や看護師が駆けつけるという体制を作るのは生半なことではなかったはずです。

 

 鎌田先生は「醫から医に字が変わった時に、医療は本来持っていた「技術」と「奉仕」と「祈り」の三位一体を忘れ去り、技術にのみ走っていったのではないだろうか。医療がかつての技術と、奉仕と、祈りをバランスよく取り戻したときにはじめて、痴呆性老人や末期がんの患者さんをやさしく看取ることができるのだと思う。」とおっしゃられていて、患者に寄り添う姿勢の重要性を呼びかけられます。

 

 だからといって治療自体も蔑ろにするわけではなく、あくまでも「技術」に寄り過ぎた現状のバランスを取る意味でおっしゃられているように感じます。

 

 QoLということが最近よく言われるようにはなってきていますが、こういう取組がより広がっていくことを祈ってやみません。

煩悩リセット稽古帖/小池龍之介

 

煩悩リセット稽古帖

煩悩リセット稽古帖

  • 作者:小池 龍之介
  • 発売日: 2009/01/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 僧侶の小池さんが日々の生活の中で煩悩を少しでも減らすための思考を、ご自身で描かれた4コマ漫画を交えて紹介されるという趣向の本です。

 

 最も根源的な煩悩と言われる三毒である貪欲(とんよく)・瞋恚(しんに)・愚痴(ぐち)を克服する方法を紹介した上で、より高い次元で「悟り」に近づくためのヒントを紹介されています。

 

 ちなみに小池さんは三毒について、貪欲(よくぼう)・瞋恚(いかり)・愚痴(まよい)とルビを振られているのですが、「愚痴」というのが、普段我々が使う意味でのグチとかなり意味が違うので、誤解を防ぐという意味と、三毒の本質的なモノを分かり易くするためにということみたいです。

 

 そもそも仏教の考え方でいうと、すべてに事象について自分の考えでどのようにも位置付けられるということなのですが、得てして我々のような凡夫は目の前の事象を三毒のようなフィルターを通してみてしまいがちだということと、それは相当意識しないとそのフィルターを外して、プレーンに世の中を見ることは難しいということで、そのフィルターの外し方のヒントを、ありがちな日常のシーンを描いた4コマ漫画を通して語られます。

 

 まずは、自分がどういう風に感じているのかということが第一歩のようで、目の前の事象に怒りを感じたら、自分が怒りを感じているんだということを認識することが重要なようです。

 

 それを認識しないまま、様々な事象を三毒が赴くままにしてしまうと、思考が渋滞を起こしてしまい、かなり大きなストレスになってしまうということで、一旦客観的な視点を持つことで、その時点でのマイナスの思考をリセットすることにつながるようです。

 

 もっとレベルを上げていくと、自分自身の存在すらも客観的に見ることができるようで、そうなると目の前の事象がスルスル通り過ぎていくように思えて、穏やかなココロが持続するようです。

 

 こういう考え方って、原始仏教に近いところにあるようで、小池さんご自身はこの本の著作当時浄土真宗の寺院の住職を務められていたということですが、こういう原始仏教的な考え方にかなり関心が強かったようで、こういった著作に取組まれたということです。

 

 この本の中で触れられているのですが、ブッダ自身は「宗教」には否定的な考え方をお持ちだったようで、そういう意味では三大宗教の一つとされるようになったのは不本意かも知れませんが、こういう原始仏教に近い考え方は、どちらかと言うと宗教と言うよりも自己啓発に近いモノのように思えてきます。

教養としての仏教入門/中村圭志

 

 

 宗教学者であり、信仰を前提とせずに宗教の概要を紹介する様々な著書を手がけられている方による仏教の入門書です。

 

 こちらも先日紹介した『池上彰と考える、仏教って何ですか』同様、仏教の誕生から基本的なコンセプト、布教の展開、日本における信仰の状況など基本的な論点を網羅されていますが、特にこの本ではコンセプトの部分で17のキーワードを手掛かりに、仏教の基本的な考え方を詳しく紹介されています。

 

 日本では自身が無信仰だという方が少なからずいらっしゃいますが、文化的な側面を含めて、ベースのなるモノの考え方など、相当仏教の考え方が浸透していて、本人が意識することなく仏教的な思考をすることが相当多いということで、多くの日本人は実質的に仏教徒だといっても差し支えないないレベルの人が多いということです。

 

 そういう現象の好例として、仏教として知られる宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』が仏教の大きな影響の下に書かれていて、我々も違和感なくその世界観に入り込んで行っているということで、巻末にかなりの紙幅を割いて、そのコンセプトを紹介されています。

 

 この本が面白いのは、仏教をキリスト教イスラム教の教義と比較して紹介されている章が設けられているところで、唯一神を前提とするキリスト教イスラム教と、自身の解脱を究極の目標とする仏教では、一見、相当コンセプトに隔たりがあるように思えますが、大きく考えて社会正義というか社会の公平さの実現を目指すというところで、これらの宗教には共通点があるとされている指摘は、かなり興味をひかれました。

 

 

吉野家の経済学/安部修仁、伊藤元重

 

吉野家の経済学 (日経ビジネス人文庫)

吉野家の経済学 (日経ビジネス人文庫)

 

 

 以前『吉野家で経済入門』を紹介してかなり面白かったので、最初に出版されたこちらの本も手に取ってみました。

 

 続編の方を紹介した時にも言及しましたが、こちらの方も経済学というよりも経営学的な要素の方が多く、さらには飲食店の店舗運営みたいなところも、そちらをビジネスにされている方には結構役に立つんじゃないかと思うレベルで紹介されています。

 

 続編の方で、狂牛病対応とデフレ時の値下げ競争対応のことを詳しく紹介されていましたが、こちらの方では会社更生法適用から立ち直った過程が大きくフィーチャーされたカタチになっています。

 

 都市伝説で、吉野家が倒産したのは原材料にワインを使ったりという原価の掛け過ぎが原因だとまことしやかに語られていますが、原価割れは事実のようですが、やはり最大の原因は絶好調で拡大基調にあった時に、ムリな店舗数の拡大を図ったことのようで、最近のいきなりステーキの急ブレーキにも見られましたが、チェーン店の急成長期の店舗拡大はホントに危険なようですが、なかなかその誘惑に打ち勝つのは難しいようです。

 

 特に吉野家の倒産時には、急拡大をしながらも提供する牛丼のクオリティにこだわり続けた挙句、食材の調達の際に異様にコストがかかるルートからのものを取り入れざるを得ず、しかも本部からの一括での食材提供にこだわって、フランチャイズ店への提供で逆ザヤを出すような形態にしてしまったからだということです。

 

 正編でも続編と同様、牛丼のクオリティへのこだわりを軸にした経営戦略が末端の店舗オペレーションにまで浸透しており、こんなのを読むと吉野家に食べに行きたくなってしまいますね…(笑)

英語独習法/今井むつみ

 

英語独習法 (岩波新書)

英語独習法 (岩波新書)

 

 

 最近本屋に行ったら、新書コーナー入り口の一番目立つところに、あまり売らんかなのハデな展開とは無縁と思われる岩波新書出版の、割と地味なタイトルのこの本が大量に平積みになっていたので驚いたのですが、どんなものなんだろうかと興味を惹かれたので手に取ってみました。

 

 この本は2018年度のNHKラジオ講座「入門ビジネス英語」のテキストに連載されていたモノを大幅に加筆の上で1冊の本にまとめられた本だということなのですが、ありがちな”カンタンに英語が習得できる”といった感じの内容には見えませんし、割と生硬な文体で、そこそこ高度な内容と思えるのですが、それでも売れているのでしょうか…

 

 ただこの本、ある程度英語のレベルを上げてきて多少は意思の疎通も図れるようになったけど、時折会話をしている相手の態度がビミョーになることがあって、何か変な言い方をしているんだろうなぁ…と感じるけど具体的にどうしたらいいのか分からない…といった感じの人が自分なりに対策をするといった、今までどの参考書でもカバーできていなかった範囲で、そういう立場のひとからしたら、そこそこそこ!!そういう本が欲しかったんやー!!と快哉を叫びたくなるモノなんじゃないかと思います。

 

 この本は語学の習得を認知科学的な側面から研究されている方の著書で、子どもの語学習得のプロセスを踏まえながら、ノンネイティブである我々が英語を習得していくなかで踏むべきプロセスを研究されているということです。

 

 そんな中で今井さんは英語を習得する上で「結局、語彙を育てることが、アウトプットできる英語力をつけ、さらに読む、聴く、話す、書くの4技能をバランスよく育てるためにもっとも大事なことだ。」とおっしゃっておられて、語学習得の上で、最も重要な要素が語彙だとおっしゃいます。

 

  ただ、語彙といってもただ単に英単語・熟語とその日本語訳を覚えたらいいと言うワケではなく、この語彙はこういう風に使うとか、この単語の一緒に出てくることが多いとかという語彙の用法を含めた意味の認識である「スキーマ」を意味していて、それを身に付けることこそが、真に語彙力を身に付けるということを意味しているんだそうです。

 ただ、日本の多くの英語学習者が、英語の語彙に対して単語帳に載っているような日本語訳を介在させて、その日本語訳に基づいた日本語の「スキーマ」を無意識のうちに当てはめて、それを元に理解をしようとしてしまうから、英語の習得から遠ざかってしまうということが多く発生しているようです。

 

 以前だと、そういう英語のスキーマというのが、何となくこういう風に使うもんだ、ということで、暗黙知的なところがあったのですが、最近はコーパスみたいなモノがオンラインツールとして提供されていて、多くは無償で使えるということで、統計的にこういう使い方が多いということを把握できるようになり、そういうモノを参考にすることで、なかなか把握することが難しかったニュアンス的なモノを有意に習得できるようになるということです。

 

 ということで、日本語だと同じ意味になってしまう2つの語彙も、そういうツールを使うことで、英語的にはこう使う方が正しいらしいということが把握できるということで、地味ながらもこの本は、特にある程度の英語力のある人にとって、英語力を伸ばすための革命的な書籍なのかも知れません。

図解認知症にならない29の習慣/鎌田實

 

 鎌田先生の本職の医師としての著書で、認知症にならないようにするための生活習慣を紹介されていますが、時期的にということで、巻頭にコロナに感染しないための生活習慣も紹介されています。

 

 塩分を避ける、野菜を多く摂る、マメにカラダを動かすということで、高齢者の健康を維持するためのありがちな心得と大部分は重なるワケですが、そういう習慣に取組もうとするためにはやはり精神的にも充実している必要があるということで、可能な限り積極的に社会とのつながりと持つということも推奨されています。

 

 特に下半身の機能維持について強調されているように感じられ、3分早歩きをして、3分ゆっくり歩くという、インターバルウォーキングは結構効くんじゃないかと思われます。

 

 また、ウォーキングをしながら暗算をすることが、脳機能を維持する上でもかなり効果が高いということのようで、ためしてみる価値はありそうです。

 

 29の習慣全てを網羅して実施することは難しいかも知れませんが、ちょっとずつ試してみる価値は高そうです。

 

女子と貧困/雨宮処凛

 

 不登校や貧困など社会の弱者についての著書や支援活動などで知られ、”知の怪人”佐藤優さんもその活動を絶賛されている雨宮処凛さんが貧困にあえぐ女性の実態を紹介された本です。

 

 女性の貧困というと、中村淳彦さんや鈴木大介さんの『貧困とセックス』のように性風俗とリンクさせてしまいがちですが、この本で紹介されている人たちは”踏みとどまって”いる人たちで、風俗関連に携わられているのはキャバ嬢の組合活動を扱ったモノのみとなっています。

 

 それにしてもこういう貧困にあえぐ女性たちの実態を見ていると、日本におけるセーフティネットというのはロクに機能していないとしか思えないのが実態で、まずは生活保護が申告制となっていて、被用者からの申告が無いと支援を受けられないということで、自分が対象となるのかどうかを確認しなくてはいけないことになっています。

 

 また生活保護を受けようとしても、親族への照会など多様な制約があって、結局は支援を受けるのを断念してしまう人が少なくないようです。

 

 さらには受けられたとしても、クルマが持てないとか、受けられる教育が制限されるとか、子どもがバイトをするとその賃金の分減額されるなど、おおよそ手厚い支援とは程遠い状態となっているということです。

 

 また、離婚した場合の養育費を受けられているのは、全体の中でわずか2割にとどまっているということで、養育費の支払いを確保するための仕組みも整備されていないままで、子どもを抱えた女性の多くは離婚により貧困に直行してしまう状況となっているようです。

 

 そういった中で、貧困の連鎖を断ち切って、子どもにはシアワセになってもらうよう苦闘されている人たちを紹介されているのですが、こういう状況を見ると、やはりベーシックインカムの導入には一定の意義があるんじゃないかと思ってしまいます。

 

 何にせよ、こういうところに手を付ける気配も見せないで、”一億総活躍”もあったもんじゃないですよねぇ…