キャプテンシー/鳥谷敬

 

 

 長らく勝てない時代の阪神タイガースを生え抜きとして支え、2019年には千葉ロッテマリーンズに移籍して、今シーズンもいぶし銀の活躍を続けている鳥谷選手が、”アニキ”こと金本監督の下でキャプテンを務められていた時に書かれた著書です。

 

 今シーズンは久しぶりに首位を快走している阪神タイガースですが、鳥谷選手の2年目の2005年に岡田監督の下でリーグ優勝していらい、早や16年優勝から遠ざかっていますが、今年はこのままゴールテープを切れるのでしょうか…

 

 鳥谷選手と言うと、2018年シーズン限りで阪神を離れて千葉ロッテに移籍することになるのですが、その時に阪神の対応が長年にわたる功労者への対応とは思い難い、かなり失礼なんじゃないかと思える部分があるのと、金本監督の下でキャプテンを務めている時も、覇気にかけるとかということで、相当ハッパをかけられていた記憶があり、本人的には大丈夫なんだろうか…と思うことが多々ありました。

 

 本人はかなり知性派と言うか、考えて野球をするタイプなので、気合一発の金本監督とはあまり相性はよくはなかったでしょうが、それでも金本監督の間は、数少ない生え抜きだからという事情はあったとはいえ、ずっとキャプテンの重責を果たしてきたところから見ても、それなりに評価はされていたんでしょうけど、どうしてもその実力や実績から見ると軽い扱いをされているなぁと思わざるを得ません。

 

 最近は野球でもあんまり根性論に重きを置く指導者が減ってきていて、しかもかなりアタマを使わないと、多少センスがあってもなかなか成功しない選手が多くなってきている感じで、ひょっとして鳥谷選手は早く生まれ過ぎたんじゃ…と思いながらこの本を読んでいました。

 

 現役生活はそれほど長く残されていなさそうなので、今から歴史に残る選手になる可能性は低いかも知れませんが、その理知的な野球センスで、歴史に残るような指導者になってもらいたいところです。

まちづくりと図書館/大串夏身

 

 

 ご自身も図書館勤務を経験されていて、大学で図書館に関する講義をされていたり、図書館の設立計画にも関わられている方が、まちづくりに果たす図書館の役割について語られた本です。

 

 まちづくりと図書館がどう絡むのかということについて、あまり意識する人は多くないんじゃないかと思うのですが、実は都市計画に関しての規定をしている「まちづくり3法」の規定に基づく中心市街地活性化基本計画のガイドラインに図書館の役割を盛り込むようにとの指針があるということで、多くの自治体の基本計画に図書館の役割について言及されることになっているということです。

 

 まあ、ガイドラインにあるからと言う消極的な理由でおざなりの記載をされているところも少なからずあるでしょうけど、中には積極的に図書館の役割をクローズアップして、まちづくりの重要な役割を担わせようという計画も少なからずあるようです。

 

 特に「まちづくり3法」の基本的なコンセプトの中に、コンパクトなまちづくりというモノがあって、できる限り生活を歩いていける範囲で済ませられるようにとの指針があって、ショッピングセンター的な商業施設の中に官公庁を設置しようとするところが出ていていて、そんな中で図書館も商業施設内に設置しようという動きもあるようです。

 

 特にそういう施設だと図書館が人流に一定の役割を果たす部分もあるんでしょうけど、せっかくそういう拠点にあるんだからということで、ある意味での発信基地になろうとか、知的なイベントの拠点にしようとか、そういう積極的な姿勢の図書館が少なからず出てきているということです。

 

 やはり図書館と言うと知的活動の役割を担うのが相応しいというところもあって、高齢者の情報リテラシーの向上だったり、子どもたちが本に親しむことから始まって、情報社会における基本的なスキルを身に付けるためのサポートなんかにチカラを入れられているところもあるようです。

 

 さらには起業家や中小企業なんかをターゲットにして、ビジネス支援を視野に入れているようなところもあるようで、結構図書館がエキサイティングな場になっているところもあるようです。

 

 本離れが叫ばれて久しいですが、できれば本を取り巻く環境が盛り上がれば理想的ですが、それだけではなく、知的な交流の場としての図書館がもっと活性化すればいいですよね!?

失敗図鑑/大野正人

 

 

 先日紹介した『読書革命』に推薦図書として挙げられていたので手に取ってみました。

 

 こちらの本は児童書にカテゴライズされるのですが、エジソンアインシュタイン、からスティーブ・ジョブズに至るまで古今の巨人たちの「失敗」を紹介されて、あんな巨人たちでもこんなクダラない失敗をするんだよ、ということを紹介されています。

 

 堀江貴文さんが『すべての教育は「洗脳」である』を始めとして、著書の中で再三日本の教育がクリエイティブな人材を育成する上で大きな障害になっていることを指摘されていますが、その原因の一つに極端に失敗を避けようとするような教育があるんじゃないかと思います。

 

 確かに「失敗」は心地のいいものではありませんが、エジソンではなくても、よく言われる「失敗」というのは、ひょっとしたら成功のヒントかも知れませんし、「失敗」しないためにトライしないというのは本末転倒どころか、一切の成長をストップさせることにもなるので、そういう意味でこういう「失敗」を奨励するような姿勢があってもいいのかもしれません。

 

 それだけではなくて、例えばジョブズなんて、間違いなく「巨人」ではあるのですが、ゼッタイに身近で付き合いたいキャラではないですし、アインシュタインなんかも昨今だとほぼ間違いなく精神障害が疑われるようなキャラではあるのですが、あれだけの業績を残すことになるということで、学校で多少成績が振るわなかったり、イジメられたりしたとしても、その後の成功とは全くリンクしないということを、その子自身だけじゃなくて、親としても認識しておくことが必要なんだなぁと思います。

 

 どっちかというと子供たちよりも、親の方がこの本を読んで目先の、いい子であることにこだわらないようにした方がいいのかも知れません…(笑)

後悔しない超選択術/DaiGo

 

 

 前々からメンタリストのDaiGoさんのことは気にはなっていたのですが、ふと思い立って著書を手に取ってみました。

 

 「後悔しない」ための選択術ということなのですが、後から考えたら何であんなもん買ってしまったんだろう…と思うようなものを買った経験は誰しも一つや二つはあるんでしょうけど、買い物くらいなら、それほど高額なモノでない限りはともかく、結婚だったり転職だったりといった人生の重大な決断でそれをやってしまうと取り返しがつかないこともあり得るので、「選択」には慎重でありたいモノです。

 

 ということでこの本では、選択をする際の個々人ごとのスタイルと、選択をする際に置かれている状況などを勘案して、ハズレを引かないようにするための考え方を紹介されています。

 

 割と選択をする際に、直感に頼る人や周囲の人からの影響が大きく作用する人も少なくないとは思いますが、できればある程度比較検討をするようなスタイルを勧められていて、まあ、元々いろいろ比較検討する性癖の人にとっては当たり前ではあるのですが、常にその選択をした場合に考えられる結果とそれ以外の選択をした場合の結果を、少なくともちょっと思い浮かべるようなクセをつけておくのは悪いことではないということです。

 

 さらにちょっと意外だったのが、何らかの選択をして、その結果をどう受け取る傾向があるのかということも、選択をする上で重要な要素になるということで、仮に「失敗」したと思っても、深刻に受け止める性癖がある人よりも、「ま、いいか!?」みたいに思える人の方が、その後の選択で「失敗」する確率は低いようです。

 

 あとは、何か忙しかったり、その選択以外に重大な課題を抱えていたりという時には、できれば重要な選択は避けた方がいいらしくて、得てしてそういう時の決断はハズレを引いてしまうことが多いようですが、それでもそういう決断をしてしまいがちだということも指摘されています。

 

 まあ、この本に書かれていることを、ちょっとアタマの片隅に置いておくだけでも、ハズレを引く確率が下がりそうですし、かなりサラッと読みやすい本ですので、今後の選択の精度を上げるためにも是非!

「空気」と「世間」/鴻上尚史

 

 

 以前紹介した鴻上さんの対談による共著『同調圧力』の中で共著者で「世間学」を専門にされている佐藤直樹がこの本を「世間学」の傑作として絶賛されていたので手に取ってみました。

 

 『同調圧力』の中で、日本において同調圧力が強く働くのは「世間」の「相互監視」による抑制が働いたからなのではないかという指摘がありましたが、この本はそういう「世間」の実態と、元々限られたコミュニティである「世間」が構成員の間で共有している暗黙の了解とも言える「空気」によって相互支配みたいな状態を作っていたことを指摘されています。

 

 ただ、昨今会社や隣人の間においても、以前のような「世間」と言える程のつながりは希薄になってきているにも関わらず、「空気」を読まないことを「KY」といって蔑んだりするような状態になるのか!?というのが、言われてみれば不思議なんですが、そういう考察をされています。

 

 「世間」における相互監視みたいな現象は日本特有のようにも思えますが、西欧でもずっと以前には「世間」的なモノがあったようなのですが、唯一神との直接のつながりということを重視するキリスト教の普及に伴い、唯一神以外の支配とも言える「世間」による実質的な支配状態を徹底的に叩き潰したことが、西欧社会における「世間」ではなく「社会」とのつながりを顕著にしたということで、ある意味「世間」での相互監視と言うのは人間の本来の姿に根ざしたモノとも言えるのかも知れません。

 

 ただ、ネット空間とか不特定多数でありながら閉じた世界である「世間」を形成するような現象もうかがえて、そういった現象が悲劇的な犯罪にもつながっているということも指摘しておられて、何かそういう囚われがあった時の逃げ場を確保しておかないと、そういう悲劇に見舞われる可能性も無きにしも非ずだとおっしゃいます。

 

 単純に、1つの「世間」に拘泥されないということなんですが、意外と「世間」の目を気にする人は、外の世界へ意識がいかない人が多くて、それが故に極端な行動につながるということなんですが、いくつか「世間」を持つとか、突き抜けて「社会」とのつながりを意識するとか、狭い「世間」にこだわり過ぎないことを常に意識しておいた方がいいようです。

見仏記/いとうせいこう、みうらじゅん

 

 

 仏像好きで知られるみうらさんが「仏友」いとうせいこうさんと仏様を見て歩いた様子をまとめた本です。

 

 奈良、京都の名刹から東北、九州の秘仏を訪ねた際のことを紹介されていますが、以前紹介したみうらさんの『マイ仏教』でも読んでいて同じような感覚を抱いたのですが、仏像をカッコいいとか、ヒップだとかセクシーだとかいった感じで、サブカル的なイメージで捉えられているのが印象的です。

 

 特に六波羅蜜寺空也上人像について、ラッパーと表現されているのが言い得て妙だなぁと思ったのですが、おそらく空也上人の踊り念仏は当時の人々に取って現代のラップのようにヒップなモノと響いていたのかも知れないと思うと、より仏教が身近なモノに感じられるかもしれないと思うとともに、布教のためにはそういう享楽的な要素もあったのかも!?と思わされます。

 

 また、よく菩薩像のセクシーさについては指摘されるところですが、腰回りのラインなどは明らかに女性のそれを意識しているとしか思えないものがあり、しばしばこの本の中で観音像や菩薩像のセクシーさが指摘されていて、人々を仏像に引き付ける要素として、荘厳さや神秘さだけでなく、ある程度下世話なアピールもあって不思議ではなかったんじゃないかと思い起こさせます。

 

 確かに仏像をありがたがる中で、そういう下世話な部分の指摘に眉をひそめる向きは分からなくもないですが、そういう空気が大勢を占めることが仏教の影響力の低下につながった部分もあるんじゃないかと思われ、こういうお二方の楽しみ方を無下に否定するのはどうなのかな、と思います。

 

 お二方がホントに仏像がお好きなのは、あまり目を向けられることの多くない、明王像に踏みつけられている邪鬼にまで言及されているところで明らかでしょうし、こういうポップな楽しみ方が広がっていけば、より仏教が活性化するのかも知れませんね!?

学びとは何か/今井むつみ

 

 

 先日、認知科学の知見を元にした英語の学習法を紹介した『英語独習法』を紹介しましたが、こちらの本はもっと根源的な「学び」のメカニズムを認知科学の観点から解き解した本です。

 

 元々人間は、母国語を誰に体系的に教えられることなく習得するように、自ら自然に「学ぶ」習性があるワケですが、そういうことが外国語や数学には当てはまらないのはなぜなのかという問いかけをキッカケに「学び」や「熟達」のメカニズムを紹介されています。

 

 「学ぶ」ということと類似している事項に「記憶」がありますが、認知科学のメカニズムから言うと、「記憶」自体はただ単に脳に納めているというだけで、それを活かす意図はないということで、「学び」にするためにはそれを何らかのカタチで役に立つ「知識」に変換しなくてはならないということです。

 

 「知識」に変換する過程で「スキーマ」という変換のシステムを経るワケですが、その中には「記憶」がその後自分の「学び」に役に立つかどうかと言う取捨選択が行われるということで、よく英語の"R"と"L"の発音の違いを子どもは聴き分けたり話し分けたりできるのに、オトナができないのは、母国語を習得する過程でイラないものだというフィルタリングがされた結果なんだということです。

 

 でもそういう変換のシステムである「スキーマ」が意図しない変換をしてしまうこともあり、そういう誤変換をしないように、徐々にそのスキーマ自体のメンテナンスをして、”正しい”変換にたどり着くのが「学習」の過程なんだということです。

 

 ということで、「学び」のプロセスをスムーズに回すためには自発的な取組が必要なようですが、そういうアプローチを紹介してくれるともっとうれしんですけどね…(笑)