居心地のよい旅/松浦弥太郎

 

 

 松浦弥太郎さんが2006年から2年間に渡って「COYOTE」誌に連載されていた紀行エッセイをまとめた本だということです。

 

 ”紀行エッセイ”だということですが、名所・旧跡やその地方独特のグルメといった、いわゆる旅行本的な色彩は希薄で、かなり松浦さん自身現地に馴染んだというか、旅人と居住者の中間的な立ち位置での書きっぷりが目立ちます。

 

 また、ロンドン、パリ、サンフランシスコ、NY、台北とかなりメジャーな都市を取り上げてはいるのですが、その中でもかなり限られた、しかもそれほど観光客が興味を示しそうなエリアではないので、あくまでもその街で生活をするというような感じになっています。

 

 朝起きて、ある程度馴染んだカフェやダイナーにいって、特別なモノではないんだけど、ほっこりと味わい深い、老夫婦が作ったような美味しい朝食を食べて、元々アメリカで書籍の買い付けをされていただけあって、古書店や書店を回って、というような訪問者なんだけど旅行者とも言い切れないようなフツーの行動を、割とどの都市でもされているので、ちょっと退屈になる人もいるかもしれません。

 

 ただ、個人的には、かねてから海外に旅行に出かけてそういうフツーの生活をするのに憧れていて、まさにこの本で松浦さんがされている旅が、そのものだというかんじなのですが、未だ海外に行くと、せっせと名所に出かけてしまいます。

 

 いつかこういう旅をしようというロールモデルとして、この本を時折取り出して見返してみようかと思います。

そろそろ、お酒やめようかなと思ったときに読む本/垣渕洋一

 

 

 はじめに断っておきますが、こんな本を取り上げたからと言ってワタクシ自身がお酒をやめようかなと想っているワケではありません…(笑)

 

 こんな本を読んでいることがヨメにバレたら、ようやくその気になったか!?と色めき立ちかねないので、極秘事項なんですが…

 

 ただ、元々割と酒量が多いのは自覚していて、単身赴任時代からは多少減らしたものの、在宅勤務となって早く働き始めて早く終わる生活をしているもんで、仕事が終わったら速攻飲んでいることもあって、もうちょっと抑えんとアカンかなぁという意識もあって、つい魔が差して自腹でこんな本を買ってしまいました。

 

 この本は以前紹介した『実録!アルコール白書』のような廃人寸前の背筋が凍るような症例が紹介されているワケではないのですが、長らくアルコール依存症の治療に携わって来られたご経験から、アルコール依存症の治癒の難しさについて触れられていて、如何にして、その手前の段階で踏みとどまるのか、ということの重要性を繰り返し強調されています。

 

 そのギリギリの線を把握するために、診断チャートみたいなものを紹介しているのですが、以前紹介した『しくじらない飲み方』で紹介されていた診断チャート同様、割とキワキワな感じで、やっぱりそれなりにヤバい状況だということを再認識した次第です…

 

 とにかく酒量を減らすのには、まず酒が「薬物」だという意識をもって、それなりのリスクが伴うことを意識すること…特に、ワタクシも頻繁にたしなんでおりますが、ストロング系チューハイという、ちょっとしたドラッグよりもヤバいとされるモノがフツーにコンビニで売っている…がスタートで、自分の医師に頼らず、そのための仕組みに従ってメカニカルに進めていくしかないようで、そういうプロセスに入れない人は、医者に頼るべき見たいです。

 

 って、こういうネタを酒を飲みながら書いているんですけどね…

決戦前のランニングノート/大迫傑

 

 

 東京オリンピック6位入賞の激走を最後に現役を引退したマラソンの大迫選手の東京オリンピックに向けたトレーニング内容についての個人的なノートを中心とした記録で構成された本です。

 

 大迫選手は高校の時に、現在は東海大学の駅伝監督をされていて2019年の箱根駅伝で大学史上初の優勝に導いた両角監督のススメで練習ノートをつけ始めたということで、大学進学以降はそれほど熱心に記録はされていなかったということなのですが、東京オリンピックの準備において、記録を復活させたようです。

 

 国内にいると、様々な雑音に悩まされるということで、ノイズキャンセリングの意味もあって、東京オリンピックに向けたトレーニングをケニアで行うことにされて、さらにはコロナ禍によりケニアロックアウトのため、トレーニング拠点をアメリカに移すなど、かなり負担は強いられたようですが、ある程度ノイズキャンセルの目的は果たせたようで、それなりにリラックスしながらトレーニングに集中されていた様子が伺えます。

 

 ただ、トレーニングに並行して、引退後の育成に関する準備も進められていたようで、この本の中では引退については触れられていませんが、ご自身がガチで勝負してケニア勢に勝てる可能性については否定的な見方をされており、トップに立つことはのちの世代に託して、ご自身がその支援をしようとするようなことは示唆されており、東京オリンピックでの引退を決意されていたかどうかはともかくとして、遠くない将来にサポート側になろうとしていたことは間違いがないようです。

 

 ある意味、大迫選手自身、自分のレースのためにはあらゆる努力をされていたと思うのですが、あまりに先が見えすぎていたんじゃないかということが多少残念ではあるのですが、大迫選手が手掛ける選手の今後の活躍を期待したいところです。

人生を変える勇気/岸見一郎

 

 

 なぜかドラマ化までされた『嫌われる勇気』の記録的なヒットで一躍名を馳せたアドラー心理学と著者の吉見先生ですが、この本は吉見先生によるアドラー心理学をベースにした読者相談のカタチを取った本です。

 

 『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』がやたら難解だったので、ちょっとアドラー心理学の本を手に取るのには躊躇していた部分があったのですが、そのあとに手に取った『よく生きるために働くということ』が割と読み易くて、ちょっと拍子抜けしたこともあり、コチラの本も手に取ってみた次第です…ちょっと2匹目(3匹目?)のドジョウを狙おうとするアサマシいタイトルが気にはなりますが…

 

 冒頭にも触れられていて再三言及されているのは、得てして人間というのは決断を避けたがるモノで、自分を取り巻く様々な状況を決断をしないための”理由”にしたがるんだと指摘されています。

 

 アドラー心理学においても「すべての悩みは対人関係の悩みである」と説かれているように、この本でも悩みの相談のほとんどが対人関係に絡むもので、そういう悩みが自らの行動を阻害していることが多々あるのは、多くの人が感じていることでしょう。

 

 ただ、これも繰り返し強調されているのが、他人のことを始めとして、自分がコントロールできないことで悩むのは全くのムダだということで、自分がコントロールできる範囲で何ができるのか、ということにフォーカスすることで悩むべきことが随分と減るようで、そういう夾雑物を減らすことで、行動につながるケースも随分と増えるようです。

 

 どうしても、周りの状況が自分の思ったようにならないと不快な部分もありますが、それを受け流せることで随分ストレスが減るようで、ワタクシ自身割とそういうことでイライラしがちなことがあるので、できるだけこういう考え方を自分のモノにしたいところです。

10年後破綻する人、幸福な人/荻原博子

 

 

 家計への提言などをテーマとした著作で知られる方が、リタイアを控えた人をターゲットにした著書です。

 

 この本は2016年に出版された本で、2026年時点でリタイア後の生活を送られている人をメインターゲットとされている内容なのですが、タイトルだけ見ると老後に向けた対策みたいな内容を想像するのですが、割と経済や年金などの我々を取り巻く状況に終始していて、こうすれば老後のおカネは安心!みたいな内容を期待する向きには、全くといってもいいほど期待外れで、そういう部分については著者というよりも編集者や出版社にせ金があるのかも知れませんが、こういう売らんかなで、カンバンに偽りアリみたいなモノは厳に慎んでほしいところです。(こういうところも、出版不況の遠因のひとつだとワタクシは思うのですが…)

 

 介護や年金、マンション、投資といったリタイア世代にも関連の強いテーマが扱われてはいるのですが、あくまでも概況の紹介に終始しているように思えて、それが個々人にどう影響して、どう乗り切っていくのか、ということがタイトルからすると触れられているべきだと思うのですが、あまりそういう内容は希薄です。

 

 まあ、そういう内容だとバレるとそれ程売れないので…ということなのかも知れませんが、ワタクシは古本屋で100円で買ったので、被害はそれほどでもありませんが、定価で買ってたら激怒モノです…

池上彰のニュースの学校/池上彰

 

 

 これまでも手を変え品を変え、池上さんのニュースの活用法に関する本が出ていますし、このブログでも何冊かは紹介してきていますが、個人的にはこの本が一番クオリティが高く、実用的な内容なのではないかと思います。

 

 昨今は新聞を読む人が少なくなっていて、ワタクシ自身もエラそうなことは言えなくて、久しく新聞を読んでいないのですが、池上さんは再三新聞購読のメリットを強調されてきていますが、この本を読んでようやくナットクできた次第です。

 

  ただ、日本人全体としてニュースに対するリテラシが下がっていることも指摘しておられて、新聞に書かれていることをある程度以上、正確に読み取れている人が実は少ないのではないかと指摘されています。

 

 「正確に読み取れて」という内容に解釈の余地があるのですが、少なくとも語義の面でも、言われてみれば不安を覚えるところもありますし、多少は背景が読めないと「ふーん」で終わってしまって、そのニュースがもたらす影響が及ぶ範囲が見通せないことが多いような気はしていて、ある程度ニュースを理解するための素養をつけるための方法論についても紹介されています。

 

 ただ、リテラシが下がっているのは読み手側だけでは無いようで、かなり読みにくいというか、相当読み込まないとストレートには言っていることが理解しにくい記事も散見されるそうで、それも新聞社ごとにレベル差もあるようで、新聞社ごとの意見の差異もあることながら、そういう書きっぷりの差もあって、複数の新聞を読み込まないとある特定のニュースのアウトラインをつかむことすら難しいケースもあるようです。

 

 巻末には、今や数多くの共著をモノにしている盟友”知の怪人”佐藤優さんとの対談もあって、さらにハイレベルな、プロの情報収集~活用術にも触れられていて興味が尽きません。

 

 とはいうのものの、今更新聞を読もうとは思えないんですよねぇ…

真説 日本左翼史 戦後左派の源流 1945-1960/池上彰、佐藤優

 

 

 ”知の怪人”佐藤優さんが池上さんと共に、日本の戦後の左翼史を語られた本です。

 

 最近、佐藤さんは頻繁に『資本論』にまつわる著書を出版するなど、共産主義を振り返ることの意義を強調されてこられましたが、それは佐藤さんの個人的なお考えというよりも、そういう風潮が出てきているということで、『資本論』を中心としたマルクス経済学に関する著作が静かなヒットとなってきているようです。

 

 その意義については、お二方はグローバル経済の進展による自由と平等のせめぎあいの中で、「自由」が過度に強調されてしまい、人々の格差がかつてないほど広がってしまい、その是正の考え方を模索するという意味で、マルクス経済学の考え方が求められているという側面があるようです。

 

 そういう潮流の中で、日本における「左翼」の活動を振り返ろうということなのですが、戦前に政治犯として拘留されていた主要な活動家たちが、敗戦により解放され、活動を再開するところから始まります。

 

 日本における左翼的な政党というと、日本共産党日本社会党が主要な政党として挙げられますが、前者が今なお暴力革命を可能性として残していることもあって、戦後も大きく党勢を縮小した時期があったようですが、後者は現実的な路線、かつ平和主義的な側面を強調したこともあって、一時は首班指名を受けるなど、日本の戦後政界における主要キャストとしての活躍を紹介されています。

 

 この本は、1960年までの内容で終わっていることでわかるように、今後続巻があるようで、理論的な背景や、今後の格差の是正につながる内容にもツッコんで行くことを予告されているので楽しみです。