祖国と母国とフットボール/慎武宏

 鄭大世安英学梁勇基、そして李忠成と始めとする在日朝鮮人から
フットボーラーとして活躍した、もしくは志半ばにして諦めざるを得な
かった人たちを描いた本です。

 国籍や差別など過酷な運命に見舞われながらも、自身の置かれた環境
と折り合いをつけ、前向きに状況に立ち向かう姿に励まされるとともに、
南アフリカW杯のブラジル戦での国歌斉唱時の鄭大世の涙を思い出して、
こういうことが背景にあったのかと思うと、激しく心を動かされました。

 北朝鮮代表としての道をたどった者、韓国代表としての道をたどった
者そして、日本代表としての道をたどった者、それぞれが苦難と立ち向
かいながらも、一歩一歩前進していく姿に感動を覚えます。

 印象的だったのが、安英学をはじめとして、これだけの辛酸を舐めな
がらも、「在日として生まれてよかった」と、多くの人が語っているこ
とです。

 確かに、厳しい体験をしながらも、多くの素晴らしい出会いがあった
ことも、「在日」ならではだと言っています。

 ある意味、その「結実」とも言える、2005年のドイツW杯最終予選の
日本代表対北朝鮮代表の試合から始まって、文庫本でのあとがきの、
南アフリカW杯のブラジル戦で締めくくられるのですが、激しいシンパ
シーを感じずにはいられない本でした。