甲子園が割れた日/中村計

甲子園が割れた日―松井秀喜5連続敬遠の真実 (新潮文庫)

甲子園が割れた日―松井秀喜5連続敬遠の真実 (新潮文庫)

 松井秀喜を伝説にした、1992年夏の甲子園明徳義塾vs星陵戦に
おける、5つの全打席敬遠を追ったドキュメンタリーです。

 星陵・山下監督、明徳・馬淵監督に実質、これに関するコメント
を引き出せていないなど、作者の取材者としての力量に不満を覚える
部分もあるのですが、社会現象ともなった「事件」を追った作品と
して、一定の成果はモノにされています。

 5敬遠の当事者である河野投手の客観的なスタンスが意外と言う
か、逆にスゴいなあ、と思いましたし、逆に、影の負のヒーローと
なってしまった、星陵の松井の次を打つ5番打者・月岩の負った深い
心の傷が、そういう側面もあったのか、ということで、今更ですが
胸に刺さります。

 勝てばいいのか?と言う批判が渦巻いた「事件」でしたが、それ
を遂行するための組織作りという側面もあって、そういった「事件」
を遂行出来るだけのチームを作り上げた馬淵監督と、明徳ナインに
底知れぬ恐ろしさを感じたのも確かです。

 まあ、「教育の一環」としての高校野球においては、そう褒めら
れたことではないのかもしれないですが、じゃあ、「外国人」選手
を日本国中からかき集める高校はどうなんだ、とか、そんなことを
シレっと言えるのは、表面的なことだけ大げさに取り上げるマスコミ
とそれに踊らされる愚民だけなのかもしれません。