日本の景気は賃金が決める/吉本佳生

日本の景気は賃金が決める (講談社現代新書)

日本の景気は賃金が決める (講談社現代新書)

 『スタバではグランデを買え!―価格と生活の経済学 (ちくま文庫)』など、
価格の決定に関する裏話的な著書で知られる吉本さんですが、こちらは、
アベノミクスの欺瞞を暴く、ちょっと硬派な経済評論です。

 アベノミクスの基本的なプロセスとしては、インフレターゲットを設定
し、それに従って物価のマイルドな上昇を促し、その結果企業収益が改善
し、さらに賃金が上昇した結果、消費が活性化されて景気が回復する、と
いう、書いてみるとなかなか周りくどいものを想定されています。

 その中で、吉本さんは、企業収益の改善→賃金の上昇というプロセスに
関して、何の因果関係もなく、これが起こらなければ、より深刻な状況に
陥る可能性がある、ということを指摘されています。

 しかも、賃金上昇というのが、これまで比較的デフレの影響をまともに
受けてきた層に対して行われるのでなければ、消費拡大の効果は限定的だ
と指摘されておられ、現在、大企業を中心に、安倍首相の提唱に基づいて
行われつつある賃上げだけでは、目立った効果は発生しない、とおっしゃ
られています。

 また、景気刺激の方策として、公共投資の増加によるものが中心となっ
ていますが、ここ数十年の統計を見ても、公共投資の増加に基づく景気拡
大への効果は、段々と縮小して行っているということで、これも効果が
望めないということです。

 基本的には、比較的賃金水準が低かった層への賃金向上を促すことが、
最もストレートに景気回復に効いてくる、というのが吉本さんの指摘です
が、そのためには、第三次産業の振興が有効だということです。

 まだまだ書きたいことがあるのですが、キリがないので、これくらいに
しておきますが、非常に納得度の高い議論が展開されていて、単なる価格
の裏話をネタにしている人ではなくて、骨太な経済評論も出来る人なんだ、
とかなり自分の中での評価が向上した本でした。