誰も戦争を教えられない/古市憲寿

 

誰も戦争を教えられない (講談社+α文庫)
 

 

 最近は、TVのバラエティー番組でも姿を見かけるよ
うになった、気鋭の若き社会学者・古市さんの作品です。

 古市さんの本って、一見トリッキーというか、かなり
突飛に思える意見が出されるのですが、そのバックグラ
ウンドというか論拠を聞くと、妙に納得してしまうとこ
ろがあって、いつもその世界に引きずり込まれます。

 今回は、「戦争」を後世に伝える術についてのお話し
になるのですが、いきなり「戦争」と「エンターテイン
メント」という、平均的な日本人には考えられない組合
せについて語られます。

 その媒介として、「戦争博物館」において、戦争がど
う表現されているか、ということについて語られます。

 多くの国において、国立の戦争博物館があって、その
中では、国家の「戦争」に対するスタンスが端的に表現
されているとおっしゃいます。

 例えば、アメリカの太平洋戦争をテーマにした博物館
では、戦勝を賛美するトーンになり、戦争をタブー視す
る我々の感覚とはかけ離れたものになるようです。

 戦争に対する国民のスタンスを固める上で、戦争博物
館では、国民に戦争に対する関心を高めてもらう必要性
があるということで、そういう意味では、どういう方向
に向くにせよ、エンターテインメント性を帯びたものに
ならざる得ないということで、なるほどなあ…と思った
次第です。


 そんな中で、日本は「国家」として、戦争に対するス
タンスを公式に明確にしておらず、だからこそ、日本人
の戦争観もあいまいにならざるを得ないところがあると
いうことです。
 安保法案については、意外なほど日本国民が久々に自
分たちの意見を声高に表明しましたが、結局、フワフワ
したまま、流されて行ってしまうのかなあ…と先行きが
不安になった次第でした。