その1秒をけずりだせ/酒井俊幸

 

 

 駅伝の強豪東洋大学の監督である酒井さんの著書です。

 酒井さんが東洋大の監督に就任されたのは、山の神・柏原竜二の在学中で、既に設楽兄弟も入学していて、箱根で初優勝を果たした直後だったので、いい時期に就任しね、とみる向きもあるようですが、前任者が不祥事の責任を取っての辞任を受けた就任とはいえ、個人的には、よくその時期に…とは思います。

 また、そんな目のある中で、しかも少子化で、各大学が受験生確保のために、箱根で目立つ駅伝の強化に注力する中、常勝の地位を確固たるものにした手腕には目を見張るものがあります。

 タイトルは、酒井監督就任2年目のシーズンの箱根で往路優勝しながら、わずか21秒差で早稲田に敗れて総合優勝を逃した結果を受けて、酒井監督自身が、一人ひとりがあと1秒ずつ速ければ…という想いから発せられた言葉で、結果として箱根での雪辱を果たした翌シーズンのスローガンとして使われたフレーズから来ています。

 柏原や設楽兄弟、服部兄弟など、トップレベルのランナーの目覚ましい活躍から、エリート集団的なイメージを持たれる方が多いとは思いますが、あくまでも、まだ新興校ということで、どちらかというとチームビルディングの巧みさで結果を残されているんだということを、この本を読んで感じます。

 特に印象的なのが、エースに頼るのではなく、エースを活かすようなチームを作ることが重要だと言うことで、設楽兄が5区を走った2013年の箱根がその象徴だと言えるかもしれません。

 エースだけでは勝てない箱根の難しさを克服する秘訣はそういうところにあるのか知れませんね。