経営学の専門家が経済学の理論を用いて太平洋戦争時の日本軍が犯した様々な“不条理”を検証します。
このブログでも太平洋戦争時の日本軍の“愚行”のテーマにした本を数多く紹介していて、あまりの行状に気が狂ったとした思えないところも多く、日本軍の研究家たちも戦争という特殊な状況下における心理的な影響に原因を求める説が多数を占めるようです。
ただこの本では、プリンシパル/エージェント理論やアドバース・セレクションと言った経済学における選択の理論に照らして、ガダルカナルやインパールといった“大失敗”を検証してみると、その時点で現地が持っていたヒト・モノ・カネ・情報という戦闘のためのリソースを考えると、かなり合理的な判断の下に作戦を遂行していったと分析できるとのことです。
ただ、組織としてグランドデザインを持っていなかったとか、彼我の保有戦略の冷静な分析ができていなかったとか、白兵戦などの旧来的な戦術に固執したとか、日露戦争の“成功法則”に固執し続けた日本軍の組織に大きな問題があったが故に、個別の軍隊が“合理的”に戦っても却って“失敗”の度合いを強めてしまったという側面があるようです。
そもそもなぜ日中戦争だけでも持て余し気味だったにも拘わらず、圧倒的な戦力差のある英米を相手に戦争を始めてしまったのかということについても、英米に石油の補給路を断たれてしまえば、日中戦争すら成り立たなくなってしまうということで突っ走った側面が多いようで、そういう無謀なオペレーションというのは戦争という特殊状況だけで発生するワケではなく、企業経営の中でも幾多の例があるということで、よく知られた例を以って、日本軍の“失敗”との類似を指摘されています。
つまり組織に“不条理”があれば、戦略を“合理的”に遂行すればするほど、破滅に向かって一直線に突き進む危険性があり、組織デザインの重要性というモノを端的に理解できた気がしました。