ここの所時折“アンチ薩長史観”に基づく幕末史に関する本を取り上げていますが、これもそのうちの1冊のようです。
“アンチ薩長史観”本の傾向として,
・旧幕府軍にゆかりのある土地の育ちの作者
・“維新”の首謀者の出自をディスる
・討幕の偽勅のことをやたらと取り上げる
といった共通点があるのですが、この本も忠実にその系譜上にあるのですが、この作者は会津若松で生活した経験はあるものの、そこまでの思い入れは無さそうなのですが、水戸藩が開祖であり、幕末の志士達の思想的なバックグラウンドであった水戸学を研究しておられるようで、あまり評判が芳しくない徳川斉昭と、“最後の将軍”徳川慶喜を持ち上げます。
確かに徳川慶喜の開明性というのは大政奉還に端的に現れていますし、イギリス的な議会政治やフランスに範をとった軍制など“その後”のかなり明確なグラウンドデザインを持っていたことは間違いないのですが、敢えてその後の歴史を描いた人たちに無視されてきたために、あまり知られていないのでしょう。
ただ軍制云々ということとで、その後の第二次世界大戦における悲劇がなかったかも…みたいなところまでは言い過ぎで、それを言わなければ…と思わなくもないのですが…
それよりも、自らを宗家とする思想が自らを滅ぼした皮肉にも悲嘆せず、恬淡と運命を受け入れる慶喜の姿勢こそを賞賛すべきなのかもしれませんが…