日本語を翻訳するということ/牧野成一

 

 

 言語学を先行されている方が翻訳の難しさを語られます。

 そもそも違う言語というのは、異なる文化的な背景によって培われたものであって、実はピッタリとあてはまる訳語を見つけること自体が奇跡的だったりするワケですが、どうも日本では翻訳至上主義的な考えが蔓延していて、何でもかんでも日本語に翻訳してしまおうとする傾向が強くて、英語教育もその“毒”にドップリ浸かっていると言えると思います。

 そんな中でこの本では日本語を英語に訳したり、逆に英語を日本語に訳したりする中で、言語の構造的なモノであったり、慣習的なモノに起因する、翻訳する際に意味やニュアンスが抜け落ちてしまうモノがあり、それを丁寧に分類して紹介されています。

 端的には詩や文学があり、日常の言語であっても単数複数に無頓着な日本語への翻訳や、繰り返し同じ表現を使うことを嫌う英語への翻訳をすることによって、ニュアンスが変わってしまうことを紹介されています。

 オモシロかったのが、芭蕉の「古池や蛙飛び込む水の音」という俳句を英語に翻訳するという課題を、著者がアメリカで教えている際に大学生に出したところ、受け取った学生たちが何匹のカエルが飛び込んだのかということを知りたがったということを紹介されていることで、侘び寂びのニュアンスを知る日本人だったら迷わず一匹だということを類推しますが、そういうのは通じないということです。

 ワタクシ自身、翻訳をするワケではないのですが、この本に書かれているようなことを意識しておくことで、より分かりやすい英語を話すよう意識することができるのではないかと感じました。