0から1をつくる/本橋麻里

 

 

 平昌五輪のカーリングで銅メダルを獲得し、「そだねー」で2018年の流行語大賞を受賞するなど、日本にカーリングブームを巻きおこしたロコ・ソラーレを創設した本橋さんの著書です。

 本橋さん自身、チーム青森トリノバンクーバーと連続してオリンピックに出場した後、地元をベースにロコ・ソラーレを結成されたんですが、そういう環境で、結婚・出産を経て、再び平昌でオリンピックに出場されたのは、ある意味日本でのスポーツの在り方を問われているような気がします。

 本橋さんはロコ・ソラーレを立ち上がられた時に目標を聞かれて、「カーリングをたのしむこと」と言われて、記者からビミョーな反応があったことに触れられていますが、常呂町で町を挙げてカーリングを楽しむような環境で育った本橋選手からすれば、オリンピックであればメダルを取ってナンボと考える日本のスポーツジャーナリズムからすれば、異質というか“あるまじき”態度に思えたでことでしょう。

 でも、この本を読んでいて思ったのが、常呂町でのカーリングの取組は、どこかヨーロッパでのサッカーのクラブチームを思わせるところがあって、本来的なスポーツの在り方に近い気がします。

 それって、軍隊での修練からの影響が色濃い日本のスポーツ界からすると異質だったでしょうし、かつて千葉すず選手が議論を巻き起こしたスポーツを“楽しむ”という姿勢を持ったまま結果を残すという意味で、究極の回答を突き付けたことになるのかも知れません。

 本橋さんの取組が諸手を挙げて受け入れられていないのは、未だ日本のスポーツは“文化”として完全に定着していない証左であるのと同時に、確実に支持されて言っているのは、千葉すずさんの頃よりも確実にスポーツが文化として浸透していきつつあることの証明なんではないかと思います。

 本橋さん自身は一旦選手としては休養されるようですが、こういうカーリング界の流れが日本のスポーツを“文化”として定着させるためのキッカケとなればいいなぁ、と思います。