メルケルと右傾化するドイツ/三好範英

 

メルケルと右傾化するドイツ (光文社新書)

メルケルと右傾化するドイツ (光文社新書)

 

 

 「右傾化するドイツ」とありますが、それに触れられているのは冒頭のホンの少しで、ほぼ全体としてはメルケルの伝記っぽい内容になっています。

 フランスを始めとするヨーロッパ各国における極右政党の台頭やBrExitの引き金となったと言われるのがメルケルによるドイツでの難民の積極的な受け入れですが、この本でメルケルの経歴を見ていると、頑なに難民受け入れの政策を維持している理由がわかるような気がします。

 メルケル自身は東ドイツで育ったのですが、父親が西ドイツから派遣された牧師ということで、一般的な東ドイツの市民と比べるとある程度は優遇され旅行の自由もあったということですが、とは言え“西側のスパイ”みたいな見方をされることもあって、当時の東ドイツ社会からすると、ある意味過激な思想を持ちつつも、弾圧を避けるために慎重に身を処するといった姿勢も同時に兼ね備えており、その辺りのバランスがその後の政治家としての成功要因にもなっているようです。

 また自身が抑圧された中にあったということが難民への積極的な支援につながっているという側面もありながら、状況に応じて、政治的弾圧の度合いが低下してきた国からの難民の受け入れを中断するなど、臨機応変な対応が注目されます。

 第4次政権では連携調整が難航し、よりキビシイ立場に追い込まれたメルケル氏ですが、フランスの弱体化やBrExitなどの問題でEUをリードする存在がメルケル氏以外に見当たらないこともあり、あと少し踏ん張ってもらいたいものです。