AI vs. 教科書が読めない子供たち/新井紀子

 

 

 AIに大学受験をさせる「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトのプロジェクトディレクターを務められた方が考えるAIの可能性を紹介された本です。

 AIが多くのホワイトカラーの仕事を奪うとか、シンギュラリティが実現するとか、AIの可能性に関するトピックが喧しい昨今ですが、実際にAIがにどこまでのことができるかということについて、「東ロボ」プロジェクトで実際に取組んでこられた新井さんは、多くの議論について否定的な見解を表明されています。

 そもそもAIは計算機たるコンピュータで、その指示が数学的に置き換えられたものである必要があるのですが、人間の思考のプロセス自体の解析が、倫理的、技術的に不可能な状態である現状では、そのプロセスを「指示」することすら不可能な状態であることを指摘されています。

 ディープラーニングでそういった部分を補えるのではないかという指摘もありますが、新井さんは「東ロボ」プロジェクトにおいて、如何にして「学習」させるかということについて散々苦労されてきた経験から、一筋縄では行かないことを伺わせます。

 例えば、イチゴを認識するのは2歳の子供にとっても、さしてムズカシイことではありませんが、AIにとっては、赤く熟していないイチゴは、学習していなければイチゴだと判断することもできないなど、まだまだ認識の部分だけを取ってみても、人間の足元にも及ばないようです。

 ただ「東ロボ」プロジェクトにいて、東大合格レベルには至らなかったものの、全受験生の上位20%に相当すると言われるMARCHに合格できる能力を備えているということで、限られた領域においては十分人間の“代替”を果たすことができることは証明されており、十分に「人間の仕事を奪う」ポテンシャルがあるということが証明されたと言えるということです。

 未来予想図についてはなかなかムズカシイところはありますが、AIの現在位置を示す部分について、これまで読んだAI本の中でも出色のナットク感があり、冷静にAIの可能性を考える上では非常に役立つモノだと思います。