箱根0区を駆ける者たち/佐藤俊

 

箱根0区を駆ける者たち

箱根0区を駆ける者たち

  • 作者:佐藤 俊
  • 発売日: 2018/12/19
  • メディア: 単行本
 

 

 2018年の箱根駅伝で、当時3連覇中の青山学院大学の4連覇阻止に向けて挑んだ東海大学駅伝部の闘いを、実際に箱根に出走できず選手のサポートに携わったメンバーからの観点を交えて追った内容の本となっています。

 

 そのシーズンの東海大は、前年に入学した”黄金世代”が1年の時に駅伝の経験を積み、大学三大駅伝で三冠を目指した青学大に対して、初戦の出雲駅伝で優勝を飾り、箱根駅伝でも優勝候補として期待されていたのですが、結果として、この本で扱われた2018年は様々な誤算も重なり、5位に終わったワケですが、この本が出版された直後の2019年の箱根駅伝で悲願の初制覇を果たすことになります。

 

 現在の箱根駅伝はかなり巨大なイベントとなってしまったということもあり、実際にレースを走る10人だけではなく、給水をしたり、出走前の選手に寄り添ってサポートをしたり、そういった準備の手配をしたりとかなり多くの人が関わることになるのですが、そういうメンバーの多くは箱根を走ることを目指して東海大に入ったのですが、故障だったり、実力が及ばなかったりということで、最終的に箱根を走ることを断念せざるを得なかった人たちだったりします。

 

 悔しい想いを噛みしめてサポートに取組むメンバーもいれば、ある意味すがすがしいキモチで取組むメンバーもいるようですが、選手の育成というか、学生時代の勝利を目指すだけではなく、卒業して以降の競技者としてのあり方、引いては一人の人間としての生き方に資するような教育を志す両角監督の下では、メンバーから漏れたからと言ってクサるワケではなく、悔しい想いもありながら如何にしてチームに貢献しようかと言う姿勢をもつメンバーばかりなのが印象的です。

 

 この本では、4連覇を果たすことになる青学大の”箱根史上主義”的なスタンスにビミョーに批判的で、”勝負師”としての青学大・原監督に”教育者”両角監督を対比して、結局勝負で及ばないことのもどかしさを描かれます。

 

 ただ、翌年、三大駅伝の出雲・全日本を制し、万全の態勢で3冠・5連覇に向けて箱根に挑んだ青学大が、”黄金世代”の主力の数人を故障で欠く東海大に敗れるワケですが、箱根はそういうビミョーなアヤのなせるワザが堪らない魅力だったりもします。