新幹線と日本の半世紀/近藤正高

 

 

 新幹線の開業からの歩みを、周囲を取り巻く状況と併せて語られた本です。

 

 この本が出版されたのが2010年で、1964年の開業から45年余りが経っていたワケなんですが、現代のワタクシたちからすると新幹線って、最早あまりに当たり前すぎる存在となっていて、この本を読んでいると新幹線が無かったらどうなっていたんだろうと思わせるところはあるんですが、開業当初から諸手を挙げて迎え入れられていたワケではなく、色んな意味でかなり疑問の目で見られていたことが伺えます。

 

 ただ、現在の安定性を手にするまでに絶え間ない進化を繰り返してきたことも紹介されており、その過程ではかなりヤバい状況もあったようで、今となってはそんなこともあったんだなぁと言う感じですが、そういう真価があったからこその成果だということがよく理解できます。

 

 新幹線そのものの進化も驚くべきところですが、新幹線ができたことにより社会にもたらされた影響というか、恩恵についてもかなり詳細に紹介されており、言ってみればインターネットの普及における情報社会の進展とも比肩できるような社会環境の変化があったことを指摘されており、新幹線の開業により、日本社会における流動性の格段の向上といった貢献については、評価してもしきれないところだと思われます。

 

 そういった社会的な影響のハナシも興味深いのですが、元鉄としては、実は新幹線開業直前に現在の新幹線の路線を阪急電鉄が間借りしていた時期があるとか、京葉線の東京駅ホームは元々成田新幹線として開発されていたものがポシャったものが使われているなどの小ネタが紹介されているところにもそそられます。

 

 ここのところコロナ禍で苦境が続く新幹線ですが、本格的に社会生活が復活した際には散々お世話になるはずの新幹線の偉大さを噛みしめつつ、是非新幹線に少しでも縁のある方には、そのありがたさを理解するためにも一読いただきたい本です。