日本企業の勝算/デービッド・アトキンソン

 

 

 『新・観光立国論』で広く知られるようになったアトキンソンさんですが、最近は中小企業を適正規模にすることを促すことによって生産性の向上を図ることを積極的に提唱されていて、この本はそのテーマで書かれた『日本人の勝算』の続編と言うか、同じテーマをさらなるデータ分析などを交えて深化させた内容の本となっています。

 

 前著でも指摘されたように、中小企業の保護政策というのは、人口が増加して行った要る中では雇用を創生する受け皿としての役割が期待され、一定の成果を果たしてきたわけですが、人口減少局面においては生産性の低下を招く一因となっているということで、世界的に見ても中小企業比率の多い、スペイン、イタリア、韓国などが経済の不調に喘いでいることを指摘されています。

 

 さらに今回は日本における中小企業政策の問題点と、そのことがもたらした停滞を指摘されます。

 

 中小企業政策の問題点としては、起業を促すことと中小企業の保護をすることに終始してしまっており、中小企業の成長を促すようなモノになっていないことだとおっしゃられています。

 

 特に様々な保護の政策が手厚いことと、規模を拡大することによるメリットが感じられないことで、成長をしようとせずに中小企業のままでいようとするインセンティブを生じさせてしまっているということです。

 

 また諸外国と比べて、中小企業の規模の定義がかなり小規模となっていることと、さらには「小規模企業」という定義で、さらに手厚い保護をしていることで、やたらと規模の小さい企業が多くなって、生産性の向上を阻害してしまっているようです。

 

 そもそも「中小企業庁」っていう名称自体がこういう政策を象徴してしまっているともおっしゃられており、「企業育成庁」と改名改組してドイツのように企業を適正規模になるように、育成やM&Aを促すように転換することを提唱されています。

 

 ワタクシ自身もかつて中小企業診断士を受験していた時期もあり、中小企業が悪者扱いされることに複雑なキモチが無いワケではないですが、おっしゃられていることは的を得ているように思えますし、インバウンド政策で政府の諮問委員にもなって大きな影響を果たされたように、中小企業政策の分野でも影響力を発揮されることを期待しています。