世界遺産にされて富士山は泣いている/野口健

 

世界遺産にされて富士山は泣いている (PHP新書)

世界遺産にされて富士山は泣いている (PHP新書)

  • 作者:野口 健
  • 発売日: 2014/06/14
  • メディア: 新書
 

 

 世界的なアルピニストで、最近は環境関連の活動でも知られる野口さんが、富士山の世界遺産登録にまつわる状況を紹介された本です。

 

 野口さんご自身、富士山を清掃する活動をされていたのですが、そのキッカケが海外のアルピニスト仲間に富士山のあまりの汚染の状況を指摘されて、ご自身が目の当たりにした富士山の状況があまりにひどかったことだということです。

 

 野口さんが富士山の清掃活動を始められた頃にはすでに富士山を世界遺産にしようという動きがあったということなのですが、世界遺産のことにも通じている野口さんからすれば、少なくともゴミやし尿にまみれた状態や、排ガスにまみれた状況で世界遺産に登録されるとは思っておられなかったということで、せめてゴミの無い状態を作って、それにつれて、その他の状況も整って、いつか世界遺産に登録されるにふさわしいモノになればいいですね、みたいに思っていたのが、2013年に状況が整わない(と野口さんは感じておられるようですが…)まま登録されてしまったので、これは困ったことになった、と感じられているようです。

 

 登録されたんだからいいやん!?と思っている人も多いみたいなのですが、世界遺産を維持するにもかなりハードルが高いということで、そもそも富士山の登録にはかなりの”宿題”があったそうで、それをクリアしたところを見せないと登録取り消しになると脅されているということですし、実際に登録が取り消された世界遺産もあり、日本のシンボルとも言える富士山が登録取り消しなんかになった日には、かなりの赤っ恥ともなることを心配されています。

 

 日本人は世界遺産登録に登録されたら来訪者が多くなって…みたいな考え方の人が多いようですが、そもそもユネスコとしては世界遺産を維持することを重視しますので、寧ろ世界遺産の登録が来訪者を減らすことにもつながりかねないようで、実際に富士山は登山者の制限なども視野に入れざるを得ない可能性もあるということで、それまで登山者の来訪で潤っていた既得権益を持つ人たちと、世界遺産の維持とをどう天稟にかけるとかと言うのは、なかなか難しい問題のようです。

 

 その解決に向けた方向性について、小笠原諸島熊野古道といった、日本の他の世界遺産の取組を紹介されていますが、特に日本のシンボルとも言える富士山ゆえの特殊性もあり、解決はカンタンではなさそうです…