「反原発」の不都合な真実/藤沢和希

 

「反原発」の不都合な真実(新潮新書)

「反原発」の不都合な真実(新潮新書)

 

 

 元々理論物理学を専門とされていたのが、トレーディングやマーケットの世界への転身された方が”科学的”に「反原発」を語られた本です。

 

 この本の出版が企画されたのが、東日本大震災直後で、当時は「反原発」なんて語る余地もない状況だったことが伺えますが、あとがきで「新潮社に拾って」もらったとあるように、出版まで紆余曲折があったようです。

 

 現時点の日本ではおそらく大半の人が「反原発」に近い考え方でしょうし、原発維持の考え方を持っているであろう自民党も時期が悪いと思っているのか、積極的に原発維持に向けた啓発を行おうとはしませんが、この本で紹介されているように科学的な裏付けをもって評価すれば、「反原発」の論拠はかなり危ういモノであるのは伺えます。

 

 そもそも原発に比べて火力発電所が安全なのかと言えば、確実に石油を燃やして大気汚染をもたらしており、それ故に健康を害している人はいるはずですし、地球温暖化にも確実に悪影響を与えているはずなのですが、実際に福島の事故が起こってしまったが故にその影響が過度に評価され過ぎた(とこの本では言っている)原発との冷静な比較は行われることがありません。

 

 この本によると原発で事故が送る確率や放射線が人体に悪影響を及ぼす確率などをプレーンに評価すれば、人の生死にかかわる確率は原発が火力発電の数千分の一だということなのですが、その正否はともかくとして、そういう科学的な評価を一切置いといて、イメージだけの議論に終始してしまう日本の現状に、言いようのない恐ろしさを感じます。

 

 まあ政治家にしても、ここで冷静な議論をも持ち出してもご自身が得をすることはなさそうですし、そういうことに敢えて取組む政治家のいないことが日本の暗い将来を暗示しているような気がしてならない読後感でした。