公安調査庁/手嶋龍一、佐藤優

 

 

 これまでも世界情勢の展開に沿って、『独裁の宴』『米中衝突』『日韓激突』など次々とインテリジェンス活動に関する興味深い対談本を出版されて来られたお二方ですが、今回はちょっと趣が異なる公安調査庁を題材にされた本です。

 

 「公安調査庁」と言われてもピンと来ない方が少なくないのではないかと思いますが、恥ずかしながらワタクシ自身もこの本を知るまで、そういうセクションがあること自体を知りませんでした。

 

 日本のインテリジェンス機関と言うと、内閣調査室を思い浮かべる人も少なくないんじゃないかと思いますが、実は内閣調査室は小説とかで取り上げられているようなスパイ活動的なインテリジェンス活動をされているワケでは無いということで、どっちかと言うと集まってきた情報の分析に重心を置いているということで、小説なんかで扱われるイメージは、むしろこの本で紹介される公安調査庁の方がイメージに近いようです。

 

 ただ、CIAやMI6など同種の活動をするインテリジェンス機関と比較すると予算的にも体制的にも法制的にも制約が多いこともあり、「最弱の情報機関」と揶揄されることもあったということで、以前は国内に重点を置いた活動をされていたということですが、それでもお二方によると、かなり目覚ましい成果をあげられているということです。

 

 冒頭で紹介されているのが、金正男の拘束で、結果としては時の外務大臣であった田中真紀子氏がパニクッてしまい、単純に強制送還するというインテリジェンス的にはかなり残念な結果となってしまったのですが、早くから情報網を張り巡らして、来日の情報を得ていたということです。

 

 そのまま泳がせて日本での活動を捕捉して北朝鮮の意図を把握するとか、そのまま拘留した上で北朝鮮に拉致されている日本人と交換するとか、もっと有効な活用はあったんじゃないかとお二方も嘆かれてはいますが、逮捕権などの強制力のない公安調査庁としては、他の行政機関に情報をゆだねるしかなく、警察権力などはなぜコッチに渡してくれなかったんだ!?という切歯扼腕もあったようですが、公安調査庁の仕事としてはかなりのクリーンヒットだったようです。

 

 その他にもイスラム国に加入しようとした大学生の動きを察知して阻止した事例などを紹介しているのと、昨今のコロナ禍に置いても重要な役割をはたしていることも示唆されています。

 

 元々は、GHQの意図を汲んで組織されたということあって、共産党の監視などから活動が始まり、オウム真理教などの国内のテロ活動の抑制が中心的な活動だったようですが、着実な成果を上げ続けていることで次第に各国のインテリジェンス機関からも注目され始めているということと、相対的に外務省の対外的なインテリジェンス活動能力が低下してきているということもあり、次第に国外での活動も増えてきているということです。

 

 お二方は外務省の体たらくを嘆いてこられたこともあるので、かなり公安調査庁に期待する部分は多いようで、今後コロナ後の国際情勢が混沌とすることが予想される中、着実な成果を期待したいところです。