先を読む頭脳/羽生善治、伊藤毅志、松原仁

 

先を読む頭脳 (新潮文庫)

先を読む頭脳 (新潮文庫)

 

 

 昨日の山中先生と羽生さんの対談本からの、今日は羽生さん関連の本に切り替わります!(笑)

 

 この本は羽生さんの対局への取組についてのインタビューの後に、AIの開発に携わる大学の先生方が、それをコンピューターに置き換えようとする考え方を紹介されるという構成になっています。

 

 ちなみにこの本が出版された2006年はまだまだ生身の棋士の方が圧倒的に強かった頃だったのですが、羽生さん自身もこの本の後半で、いずれ棋士はコンピュータに勝てなくなると予言しているように、この時点から10年もたたずにトップ棋士でもAIに勝てなくなります。

 

 ちなみに人間の知的行動をAIに移し替えるなかで、人間がどういうプロセスで目の前の状況を認識しているかという「認知科学」の分野と、それをコンピュータに実現させるかという「人工知能」の分野の2つの段階で実現されているということなのですが、元々AIの開発のかなり初期の段階から、将棋が題材にされることが多かったようです。

 

 というのも将棋は、カードゲームや麻雀と違い、手の内をすべて相手に晒した上で戦う「完全情報」ゲームということで、コンピュータに移し替え易かったという側面があるようです。

 

 モチロン羽生さんのようなトップ棋士の認知行動をそのままのプロセスでコンピュータに移し替えることは困難なのですが、情報処理のスピードや疲労という要素が無いという強みを活かして、というアプローチで次第に強化が図られていったようです。

 

 ただ、同じ人間が将棋を指すにしても、シロウトに近い人の指し方と羽生さんのようなトップ棋士が指すのとでは全く違うアプローチとなっているようで、レベルが上がるに従い、一つ一つの局面を判断してというのではなくて、過去の経験などからある局面を見ると瞬時に最適と思われる手を思い浮かべることができることが多くなるということで、この時点ではハードウェアの性能面や、ソフトウェアの進化からしても、そういうロジカルな部分からは離れたところで、トップ棋士に対抗するのは難しかったようです。

 

 ただ、現在ではハードウェアの進化もあり、膨大なパターンの指し手を瞬時に判断することも可能となり、トップ棋士でもAIに敵わなくなったワケですが、それでも棋士同士の人間臭いやり取りのオモシロさには抗しがたい魅力があり、藤井聡太二冠のような際立ったキャラの登場もあり、また盛り上がってくるんでしょうね!?