落合博満アドバイス

 

 

 NLB史上最強打者の一人であり、指導者としても中日ドラゴンズを5度のリーグ優勝、1度の日本シリーズ制覇に導いた名将でもありながら、テリー伊藤さんに『なぜ日本人は落合博満が嫌いか?』なんて本を書かせてしまうほど、強さと人気が一致しない、落合さんの本なのですが、この本のターゲットが何と、社会人野球の監督だという、なかなかニッチな本です。

 

 選手時代も監督時代も、何かと言うと「俺流」ということで、独自の取組が、単なる変わり者のやってることとされてしまいがちな落合さんですが、この本を読んでいると、やっぱり考えすぎるくらい野球について深く考えていることを伺わせます。

 

 ご自身は、東洋大学に進学したモノの、体育会的体質に馴染めずに中退し、東芝府中に拾ってもらって、ギリギリ、稀有の才能が埋もれずに済んだということで、社会人野球では選手としての経験はあるのですが、指導者としての経験はなく、おそらく今後の日本の野球界における社会人野球の重要性に鑑みて、訴えておかなければと思われたんじゃないかと感じられます。

 

 社会人野球には、プロ野球とは異なることはモチロン、同じアマチュアである高校や大学の野球ともかなり異なる要素が求められるということなのですが、印象的だったのが、社会人野球の選手に”社会性”を持つことを強く求めらるべきだとおっしゃっていることです。

 

 以前は、社会人野球の選手は、少なくとも午前中は通常の社員と同様社業に就くことが求められていたのですが、最近はそういうことが減ってきているということで、社業に就かない選手たちの社会性が低下していることを問題視されています。

 

 ある意味、社会人野球の選手はそこに至るまでにプロとして認められなかった選手なんだ、というキビシイ言い方をされた上で、限られた時間の中で如何に自己を伸ばしていくかということに取組むことの意義を強調されており、そういう人間としての成熟こそが社会人野球出身の選手の魅力であった欲しいということをおっしゃられています。

 

 そういう選手を育てるために、野球の面においては、チームの編成面、スキルの向上面、采配の面など様々な側面での監督の役割を語られているワケですが、それに加えて人間としての育成について、わざわざ1章を設けて語られているのが印象的です。

 

 おそらく落合さんが”オレ流”ということで、変わり者扱いされてしまうのは、ここまで野球のことを突き詰めて考えられる人が、圧倒的に少数派だからなのかも知れない、と思ってしまうほど、この本に詰め込まれた思考に圧倒されました。