国宝消滅/デービッド・アトキンソン

 

国宝消滅

国宝消滅

 

 

 安倍政権においては、インバウンド政策の諮問委員的な役割を担い、菅政権においては中小企業政策において影響を及ぼし始めているアトキンソンさんですが、この本は出世作である『新・観光立国論』の1年弱後に同じ出版社から出版されて、対をなすというか、補足的な位置づけとも言える内容の本となっています。

 

 アトキンソンさん自身、文化財の修復等を請け負う小西美術工藝社の社長を務められていて、文化財行政にも明るいということもあるのですが、観光立国を標榜するにあたって、重要な観光資源ともなり得る文化財の扱いがかなり寂しい状況にあるということを指摘されています。

 

 まず文化財保護のための国家の予算が、英国と比べて1/10程度だということで、それ自体は各国の事情があるので、単純に比較できない部分はあるとはいうものの、ある意味での指標にはなり得ると考えれば、かなり寂しい状況であるということの一つの証左であるといえそうです。

 

 ただ、文化財と言うと「保護」されるべきものということで、その維持のためのファンドとして、補助金にしか目がいかないことも問題であり、ある意味、その文化財が観光資源としての価値があるのであれば、その部分を担保にして資金を集めるという手段もあるでしょうが、そういうことをされているところは皆無に近いということです。

 

 そういう風に、文化財の維持という世界がシュリンクして行くと、そういう技術を担う人たちも減っていくということで、それはすなわち観光資源である文化財が朽ちて行ってしまうことに他ならないのであり、観光立国を標榜するのであれば、文化財の維持・活用ということで、その”市場”を活性化していくような姿勢が求められるということを提唱されているのですが、アトキンソンさんの政府での尽力の割には、こちらの方はインバウンドの振興に比べるとあまり進んでいないように思われます。

 

 アトキンソンさん自身が利害関係者ということもあって、あからさまにそちらへの誘導をしにくいところはあるのかも知れませんが、そこはキチンと意義を訴求して整備を進めて行って欲しいところです。

 

 コロナ禍で大変な状況ではあるモノの、状況が落ち着けば日本を訪れたいという調査結果もあることですし、まかり間違って東京オリンピック中止という事態になった場合に、観光立国が共倒れにならないためにも、観光地としての魅力の整備は喫緊の課題なのかも知れません。