10年後、君に仕事はあるのか?/藤原和博

 

10年後、君に仕事はあるのか? (ちくま文庫)

10年後、君に仕事はあるのか? (ちくま文庫)

 

 

 リクルート勤務で幹部クラスまで勤め上げられた後、民間出身者初の都立中学校の校長となったのを契機として、大阪府の教育関連の特別顧問など、教育関連で先駆的な業績を残されている藤原さんが、奈良市立一条高校の校長をされている時期に執筆された本です。

 

 これまでも、よのなかを生き抜いていくためのチカラを身につけるという趣旨での教育にチカラを入れられていて、『必ず食える1%の人になる方法』などエンプロイアビリティについての本も書かれてはいましたが、この本はその決定版と言えるかもしれません。

 

 というのも、藤原さんのおっしゃられてきたことと言うのは、何となくそういう方向に世の中進んでいくんだろうなぁ、と多くの人が感じていたとは思うのですが、いつどのようにそうなるかということがあまり明確になっていなかったと思うのですが、昨今取り沙汰されるようになった、AIの進展により人間の仕事が侵食されていくんじゃないかという可能性や、人生100年時代と言われるようになって、藤原さんのおっしゃってこられたことの必要性がこれまで以上にリアルに認識されることになったからなんじゃないかと思います。

 

 これまでの著書でも、従来型の学習で身に付ける「情報処理力」だけでなく、問題解決型の「情報編集力」を身に付ける必要性について再三おっしゃられてきましたが、藤原さんも一定の影響力を行使されて、日本の教育がそういう方向に動き始めています。

 

 「情報処理力」と「情報編集力」について、この本の中でオモシロい表現をされているのが、前者がジグソーパズルで後者がレゴだとおっしゃられていて、前者は答えが最初から決まっているのに対して、後者は組み立てていく過程の中で、いくらでも完成形を変えていけるということで、従来であれば、「アメリカのような豊かな生活を手に入れる」という”答え”が決まっていたので、如何にそれに効率的にたどり着くかという前者のアプローチが重視されていたのですが、シアワセのカタチについての”答え”が希薄になっている現在、組み立てていきながら、やっぱり違うな、と思って別の”答え”を求めるようなアプローチが求められるということです。

 

 さらには、もう一つの軸として「基礎的人間力」を新たに上げておられて、人柄や信頼感と言うのが、今後エンプロイアビリティのカギの一つとなると指摘されています。

 

 まあ、これまでも当たり前だったのかも知れませんが、それが可視化されたという側面があるんでしょうけど、藤原さんはAIの進展で、人間が手がけるべき仕事がより人間らしいことにフォーカスされるともおっしゃっておられて、そういう意味で人間としての総合力の向上が、これまでになく重視されることになるのかも知れません。