天才/石原慎太郎

 

天才 (幻冬舎文庫)

天才 (幻冬舎文庫)

 

 

 あの石原慎太郎が、田中角栄の評伝を出版したと聞いたときは、ビックリするとともに、どんだけコキおろしてんだろ!?と思いましたが…というのも、角栄さんが総理大臣をされている頃、石原さんは青嵐会というタカ派の新進議員たちと共にハゲシく非難されていたはずですし…

 

 で、この本は角栄さんの一生を、角栄さん自身のモノローグで綴るという手法を取られており、総理大臣になるまでは、最初の会社を興した頃位と同じくらいのトーンで淡々と語られます。

 

 語り口に熱が帯びてきたように思えたのが、日中国交正常化のために中国を訪れたあたりからで、毛沢東と対峙する辺りでは、角栄さんと比べて周恩来が小物に思えてしまうくらいに描かれています。

 

 あとは、ロッキード事件で起訴された後で、角栄さんは、自身がアメリカのメジャーを通さずに石油を調達するルートを確保しようとした独自の資源外交がアメリカの逆鱗に触れてハメられたと言っており、選挙資金で300億円を動かしてきた自分が、”たかが”5億のカネのために危ない橋を渡るワケがないと言い切らせています。

 

 そういうところを捉えて、この本が出版された当初、石原さんが角栄さんをかばっているという批判がでたそうですが、石原さんがこういうカワイげのあるキャラだと思っているのかと、個人的には感じますが…

 

 なぜ石原さんが角栄さんの評伝を書くことになったのかという、ワタクシがこの本を手に取った最大の興味は、「長い後書き」と題して書かれている中に含まれていますが、功罪織り交ぜて語られる角栄さんの事績の中で、やはり”功”の部分は戦後の政治家の中でも抜きんでており、仮に疑獄に巻き込まれずに、そのまま総理大臣を続けられていたら、日本はどんな国になったんだろう、という石原さんの所感を、ワタクシ自身もこの本を読みながら感じていましたし、もっと”強い”国になっていたんじゃないかという、たられば話をさせてしまうだけの存在だったからこそ、かつての政敵の評伝をしたためずにはいられなかったのかも知れません。