歴史を考えるヒント/網野善彦

 

歴史を考えるヒント (新潮文庫)

歴史を考えるヒント (新潮文庫)

  • 作者:網野 善彦
  • 発売日: 2012/08/27
  • メディア: 文庫
 

 

 「網野史学」とまで言われるほど日本史学会で影響力を持つ網野善彦さんが歴史を考える手掛かりとなるコトバについて語られます。

 

 冒頭で「日本」という国号について語られていますが、日本は他の国に例のないほど、国号の由来があいまいだということを指摘されていて、しかもいつから「日本」になったのかすら明確ではないということで、どうやら遣唐使の頃には「日本」だったということですが、はっきりと「日本」を自称するのは足利義満が「日本国王」を自称した勘合貿易に関する文献まで時代が下ってしまうということで、そういう曖昧さと言うのは、その後の日本のあらゆる側面での曖昧さにつながっている気がします。

 

 また網野さんが再三おっしゃっている「百姓≠農民」ということについても、「百姓」と「農民」が区別されている文献などを紹介されているのですが、そういうコトバの使い方というのが、歴史の見方に大きく影響していることを示唆されています。

 

 個人的に一番印象的だったのは、被差別民についてのトピックで、ワタクシ自身神戸出身なので、かなり熱心に被差別部落についての教育を受けてきたのですが、関東ではそういう意識がかなり希薄だということに驚かされます。

 

 また、「死」を穢れだとする神道的な考え方から、そういう職業が差別対象となるのは理解できるのですが、茶筅を作っていた人など、かなり意外な人たちが差別対象となっていることも紹介されています。

 

 ついつい歴史と言うと政治上の大きな出来事にばかり目が行きがちですが、そういう当時のフツーの人々の息遣いを見ることが歴史を生きたモノとして考える上で重要だというのは、網野先生の大きな功績だったんじゃないかと改めて感じた次第です。