同調圧力/鴻上尚史、佐藤直樹

 

 

 劇作家の鴻上尚史さんが、「世間学」の研究を専門とされる方と、日本におけるコロナ禍の影響を、「世間」による「同調圧力」という観点から語られた対談をまとめた本です。

 

 日本におけるコロナ禍の被害は、ニュージーランドや台湾などと比較するとかなり多く見えますが、欧米と比較すると相当少なくなっていて、その要因として衛生観念や民度など様々な根拠が挙げられていますが、この本では、「世間」の「相互監視」による抑制が働いたのではないかとおっしゃいます。

 

 確かに、マスクをしない人を糾弾する「マスク警察」やパチンコ店の営業自粛要請破りを糾弾する「自粛警察」など、SNSなどを中心として、自粛を強要する「同調圧力」が強く働いたということです。

 

 そういう圧力が働いたのは、欧米では個人個人が「社会」と直接つながっているのに対し、日本人の多くは地域コミュニティなどの「世間」を介して初めて「社会」とつながっているため、より狭い「世間」の空気みたいなものに支配されることが多く、暗黙のコンセンサスが暴走してしまうリスクがあるということで、今回のコロナ禍ではそういう「世間」の悪弊が強く出てしまったようです。

 

 「世間」という、ある程度限られたコミュニティの安寧を守ることが第一となり、誰もがマスクをすることを”強要”され、コロナに感染してしまったら「世間」に迷惑をかけたということで”糾弾”されるということで、「世間」の「同調圧力」が暴走したという風に説明できるようです。

 

 おそらく昨今、緊急事態宣言発令による人流抑制の取組が上手く行かないのは、最早「世間」の感覚が相互に人流を抑制しようという方向に向いていないからだと説明できるように思えます。

 

 東日本大震災の時には、相互に支援をしたり、火事場泥棒を抑止するなど、「世間」の良い面が強調されましたが、今回のコロナ禍では、多少感染拡大の抑制に資した部分はあるにせよ、ギスギスした空気を生んでしまったことは否定できず、社会の分断を進めてしまったようにも感じます。

 

 さらにはそういう相互監視が経済的な発展を阻害しているんじゃないかという側面もあり、そういう閉鎖的な状況というのが、今回のコロナ禍をキッカケに緩和されればいいのに、と強く感じます…