英語独習法/今井むつみ

 

英語独習法 (岩波新書)

英語独習法 (岩波新書)

 

 

 最近本屋に行ったら、新書コーナー入り口の一番目立つところに、あまり売らんかなのハデな展開とは無縁と思われる岩波新書出版の、割と地味なタイトルのこの本が大量に平積みになっていたので驚いたのですが、どんなものなんだろうかと興味を惹かれたので手に取ってみました。

 

 この本は2018年度のNHKラジオ講座「入門ビジネス英語」のテキストに連載されていたモノを大幅に加筆の上で1冊の本にまとめられた本だということなのですが、ありがちな”カンタンに英語が習得できる”といった感じの内容には見えませんし、割と生硬な文体で、そこそこ高度な内容と思えるのですが、それでも売れているのでしょうか…

 

 ただこの本、ある程度英語のレベルを上げてきて多少は意思の疎通も図れるようになったけど、時折会話をしている相手の態度がビミョーになることがあって、何か変な言い方をしているんだろうなぁ…と感じるけど具体的にどうしたらいいのか分からない…といった感じの人が自分なりに対策をするといった、今までどの参考書でもカバーできていなかった範囲で、そういう立場のひとからしたら、そこそこそこ!!そういう本が欲しかったんやー!!と快哉を叫びたくなるモノなんじゃないかと思います。

 

 この本は語学の習得を認知科学的な側面から研究されている方の著書で、子どもの語学習得のプロセスを踏まえながら、ノンネイティブである我々が英語を習得していくなかで踏むべきプロセスを研究されているということです。

 

 そんな中で今井さんは英語を習得する上で「結局、語彙を育てることが、アウトプットできる英語力をつけ、さらに読む、聴く、話す、書くの4技能をバランスよく育てるためにもっとも大事なことだ。」とおっしゃっておられて、語学習得の上で、最も重要な要素が語彙だとおっしゃいます。

 

  ただ、語彙といってもただ単に英単語・熟語とその日本語訳を覚えたらいいと言うワケではなく、この語彙はこういう風に使うとか、この単語の一緒に出てくることが多いとかという語彙の用法を含めた意味の認識である「スキーマ」を意味していて、それを身に付けることこそが、真に語彙力を身に付けるということを意味しているんだそうです。

 ただ、日本の多くの英語学習者が、英語の語彙に対して単語帳に載っているような日本語訳を介在させて、その日本語訳に基づいた日本語の「スキーマ」を無意識のうちに当てはめて、それを元に理解をしようとしてしまうから、英語の習得から遠ざかってしまうということが多く発生しているようです。

 

 以前だと、そういう英語のスキーマというのが、何となくこういう風に使うもんだ、ということで、暗黙知的なところがあったのですが、最近はコーパスみたいなモノがオンラインツールとして提供されていて、多くは無償で使えるということで、統計的にこういう使い方が多いということを把握できるようになり、そういうモノを参考にすることで、なかなか把握することが難しかったニュアンス的なモノを有意に習得できるようになるということです。

 

 ということで、日本語だと同じ意味になってしまう2つの語彙も、そういうツールを使うことで、英語的にはこう使う方が正しいらしいということが把握できるということで、地味ながらもこの本は、特にある程度の英語力のある人にとって、英語力を伸ばすための革命的な書籍なのかも知れません。