教養としての仏教入門/中村圭志

 

 

 宗教学者であり、信仰を前提とせずに宗教の概要を紹介する様々な著書を手がけられている方による仏教の入門書です。

 

 こちらも先日紹介した『池上彰と考える、仏教って何ですか』同様、仏教の誕生から基本的なコンセプト、布教の展開、日本における信仰の状況など基本的な論点を網羅されていますが、特にこの本ではコンセプトの部分で17のキーワードを手掛かりに、仏教の基本的な考え方を詳しく紹介されています。

 

 日本では自身が無信仰だという方が少なからずいらっしゃいますが、文化的な側面を含めて、ベースのなるモノの考え方など、相当仏教の考え方が浸透していて、本人が意識することなく仏教的な思考をすることが相当多いということで、多くの日本人は実質的に仏教徒だといっても差し支えないないレベルの人が多いということです。

 

 そういう現象の好例として、仏教として知られる宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』が仏教の大きな影響の下に書かれていて、我々も違和感なくその世界観に入り込んで行っているということで、巻末にかなりの紙幅を割いて、そのコンセプトを紹介されています。

 

 この本が面白いのは、仏教をキリスト教イスラム教の教義と比較して紹介されている章が設けられているところで、唯一神を前提とするキリスト教イスラム教と、自身の解脱を究極の目標とする仏教では、一見、相当コンセプトに隔たりがあるように思えますが、大きく考えて社会正義というか社会の公平さの実現を目指すというところで、これらの宗教には共通点があるとされている指摘は、かなり興味をひかれました。