賢慮の世界史/佐藤優、岡部伸

 

 

 ”知の怪人”佐藤優さんが外務省在勤時代からの知己である産経新聞の岡部さんと共に近代史を取り巻くインテリジェンスの果たしてきた役割について語られた本です。

 

 まあ、「世界史」とあるのですが、BrExitだったり中国の覇権的な動きだったりといった、つい最近の事象を取り上げておられるので、どちらかというとインテリジェンスをテーマにした方がいいんじゃないかとは思うのですが…

 

 ただ唯一かろうじて「世界史」といってもいいかな!?というのが佐藤さんが深く関わられていた北方領土返還交渉にかかわることで、橋下内閣時のエリツィン大統領との交渉の中でほぼほぼ四島返還にリーチ状態であったにもかかわらず、四島同時返還にこだわったがあまりにエリツィンの失脚を経て、四島返還は遠い所に行ってしまった内幕を紹介されています。

 

 また米中の軋轢について、トランプ政権からバイデン政権への以降に伴い、より米国側の反中の強度が高まったことについて、これまでの日本外交の推移を踏まえても、対中包囲網側の組せざるを得ないことをお二方とも語られており、むしろ中国を交えた経済的なつながりについての見直しが必要だとハッキリおっしゃられているのには、そうだろうなぁとは思いながら、そこまでハッキリ言うのか…と驚きました。

 

 佐藤さんが時折著書の中で触れられている外交官の語学力の低下ですが、最早外交の、特にトップレベルが絡んだオフィシャルな場面において、相手の信頼を毀損してしまうようなレベルまで低下している現状を指摘しておられて、外交官のキモとされる語学力だけにとどまらず、諸外国の官僚のトップ層が博士号レベルであることを考えても、日本の官僚の相対的な地盤沈下は最早国難のレベルとも言え、その対策が手つかずになっていることに空恐ろしさこそ感じさせます。

 

 最近こういう日本の地盤沈下的な本ばかりを、本を選んだ時点では意識せずに選んでしまって紹介しておりますが、このままズルズル堕ちて行ってしまうのでしょうか…